十九
「――吉備の地へ行け、か」
宇加から渡された文を開き、咲久夜は少し意外そうに呟いた。
「吉備ですか」
「ああ、姉上からな。わしらが出雲へ戻る途中で様子を見てほしいそうだ」
確認するように問いかける照灯に、咲久夜は頷き続けた。
「戦況が良くないと……」
「いや、そういうことでもないらしい。戦況が動かないからこそ、わしが直に見、現状を教えて貰いたいのだろう」
文を畳に置き、咲久夜は「ふむ」と腕を組む。
「鬼の考えを知ろうとすることが無駄なのかもしれんが……鬼が集まり吉備を乗っ取ったかと思えば、その後は動かず閉じこもっていると聞く。妙なものだ」
先の鬼人の女といい、どうにも考えが読めなかった。人と同じ感覚を持っている鬼が居るならば、考えを読むことも易かろうと思っていたのだが……逆に惑うことが多くなっている。
「吉備にも鬼人が居るのでしょうか」
「鬼の動きを見れば、そう考えたほうがいいかも知れぬな。京とは違い、吉備の鬼は誰とも戦うことなく吉備を乗っ取った。だが、休む必要がないのに、周りを攻めることはしていない。人を求め彷徨う鬼とは違うことは明白だ」
そこまで話し咲久夜は苦笑した。
「京といい吉備といい、攻めて来るのも困るが、攻めて来ないのも気味が悪いものだ。人と同じだからこそ、その心を読み取るのも難しくなるとは厄介なものだな」
「ですが、鬼人がいるとすれば……」
「ああ、わしらが会った鬼の女が鬼人の中でどれだけの力を持っているのか分からぬが、鬼の女より劣るとしても吉備にいる陰陽師と武家だけでは少し心配だな……だからこそ鬼人の存在を知った姉上が様子を見てこいと命じたのかも知れぬ」
「では、直ぐにでも」
「ああ、出立しよう」
「しかし、ここはどうしますか」
「ふむ……そうだな」
照灯に続いての那都の問いに、咲久夜は腕を解き部屋を見回した。
今ここには陰陽師の全て……志伊と伊奈も含めた全員が居た。
「わしとキキが行くのは当然だが……照灯、和可、参れ」
「はい」
「私はまた居残りですか」
応える二人に、那都が口を尖らせた。口には出さないが、宇加も少し不満げな顔をしている。




