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戦狂のキキ  作者: shio
第四章
85/461

十七


 蝋燭の灯火ともしびも届かない廊下の奥――

 開いた戸から月の閃光だけが照らす中、カナは立ち止まった。


「――見て頂けたでしょうか」

「見た」


 カナは一言応えた。


「カナ様、この乱世、そして、鬼である我が身。傍観できる立場ではないこと承知しております。ですが」


 阿曽は俯いていた顔を上げ、濡れた瞳を光らせカナへと続けた。


「温羅様を、この地を、そっとして頂けないでしょうか」

「…………」


 カナは応えず……ただ、別の事が心を埋めていた。

 使い走りさせられることといい、煩わしき事が多過ぎではないかと。


「有りの侭を申せば、興味がない。我には関係ないこと」

「では……!」

「勘違いされては困る。見なかったことにするという意味ではない」


 釘を刺し、面倒だとは思いながらもカナは京の鬼の一人として口を開いた。


「人と共に歩むというのなら、貴様らは我らの敵となる」

「……温羅様は誰とも争う気はありません」

「そうだとしても、人間はどうだ。造られた武具は人間のものになるのではないか。その武具で鬼が、同胞が殺される。そうなるのではないか」

「…………」

「人の全てがお前達を認めるわけでもない。鬼には裏切り者と言われ、人からは攻められよう。それでも、今のままでいたいというか」

「……それでも」


 阿曽は近づき、悲痛ともとれる瞳と声でカナへと願った。


「同胞から攻められ、人からも厭われようとも、害されようとも……それが、温羅様の望みであれば」

「…………」

「人の幼子を家族にしたいと仰られたカナ様ならば、温羅様のお気持ちを分かってくださると……どうか……どうか」

「……ふふ」


 阿曽は勘違いをしている。カナは人との共存を願っているわけではない。

 だが、キキの事を言われ、幼き子のことを思い出しカナは思わず笑い出した。


「はははっ、そのことを言われると我も弱い。変わり者は、我もまた同じか」


 いや、正しくいえば、キキに出会い変わらされたのだが。退屈だった世界がキキに出会い退屈でなくなった。

 少し前の自分であれば、煩わしき事として温羅や阿曽、城の人間共を殺していただろう。だが……これが感情というものなのか、煩わしき事を楽しむ余裕が出来ている。


「分かった。暫く付き合ってやろう。我がここに居れば、京の連中も動かぬだろう。人のほうはどうか分からぬが」

「……有り難う存じます」


 涙の滴は月に燦めき――


「この御恩は生涯忘れませぬ、カナ様」


 阿曽は深く頭を下げ、そして、微笑んだ。


「そこまで恩に感じる必要は無い。我は何もしないのだからな……それに」

「カナ様?」

「恩を感じるなら、キキ……先に話した童女にしろ。キキに出会わなければ、我は変わり者とはなっていない」

「そうなのですね……カナ様がそれほどまでに話すお子、いつか見てみたいです」

「ああ、近い内に会えよう。我が妹子として」

「ふふ、楽しみにしております」


 ――それが、束の間の平穏だと知っていても。

 それぞれの内の感情を宿したまま互いに笑い、カナと阿曽は暗い廊下を歩き出した。


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