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戦狂のキキ  作者: shio
第四章
84/461

十六


「――酒を持ってきた」


 陶器の酒瓶を横に置き、温羅は目の前の男、人間の男へと湯飲を差し出す。


「一杯付き合わぬか……友成ともなりよ」

「…………」


 けれど、男が、友成が受け取らぬと分かり、そのまま湯飲みを畳へと置いた。

 ふぅ、と息を付く。付き合いは短いが、この男が強情なのは知っている。


「飯も食っておらぬと聞いた。鬼の作ったものは食べぬか」

「……阿曽媛あそひめには悪いと思っている。だが、どうして食べられよう、鬼の作ったものを。人を喰う鬼の作ったものを」

「阿曽は人を食べぬ。儂もな」

「それを信じろと。ならば、外に溢れている鬼はどうだ。あの鬼共は人を喰っていたではないか……!」

「そうだな……」

「お前は何故止めなかった!」

「……言い逃れはせぬ、儂は止めなかった」

「何故だ!」

「儂は鬼だが、鬼のおさではない……吉備冠者きびのかじゃだ」


 その名が虚しいものだとしても、皮肉と捉えられると分かっていても、温羅は吉備冠者……吉備を治める者と伝えた。


「吉備の長……人の長だとでも言うつもりか」

「儂は、そう思っている」

「ならば、どうして俺達を騙していた! 自身が鬼だということを隠した!」

「騙すつもりも、隠すつもりもなかった。だが、話せば……こうなったであろう。今のように」

「当たり前であろう!」

「そう、当たり前だ。だから、話さぬほうが良いと思った。話さぬまま、過ごしていければいいと……夢想した」


 ふぅ、ともう一度大きく温羅は息を付いた。ふと、こんなに息を付くような自身だったか、と思う。

 けれど、塞ぎ込んだ心を奮い立たせようとしても、それが出来ないことも分かっている。夢は破れたのだ――それが分かっているからか、温羅はらしくないと気付きながらも独り言のように呟いた。


「友成よ、心のままを言おう。儂はお前の腕に、お前の打った刀に惚れ込んでいる。話で聞いた通りだった、遠いこのあまつの国には良い鉄があり、その鉄で打ったつるぎは美しく斬れぬものはないと。まさにその通りであった」


 ぐっと拳を握り、温羅は顔を上げ、友成を見た。


「儂はお前となら、この吉備の職人とならば、吉備を国一番の鉄の地に出来ると思っている。儂の願いはそれだけだ」


 温羅の言葉を、瞳をどう受け取ったのか……


「鉄の術をこの地に伝えたこと、それは感謝している……が、そうだとしても」


 友成は温羅から視線を外し、俯いた。


「鬼と共に刀は造れぬ。俺の刀は神にたてまつり……鬼を斬るもの」

「友成、儂はそれでも良いと思っている。同族を殺すことをよしとしている訳ではない、だが、鬼を斬れるほどの刀なら、それは良き刀だろう。儂は見てみたい」


 温羅は尚言葉を続けた。


「あの刀は見事だった。儂の鉄と、お前の術ならば尚良き刀が出来る。必ず出来るはずだ」

「……温羅」


 熱がこもる温羅の言葉に、友成は呻くように名を呼ぶ。


「終わったことだ、温羅……終わったことなのだ。もう戻れぬ。人と鬼は相容れぬ」


 拳を握り、声を震わせ……

 短い付き合いだが、この男が強情なのは知っている。


「……そうか」


 温羅は頷いた。


「酒は置いておく、飯は人間に用意させよう……また来る」


 また来て、どうするというのか……そんな囁きが自身の隅から聞こえてくるが。

 それでも、


「また話そうぞ、友成」


 温羅は友へとそう伝え、そして、立ち上がった。


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