十二
――それはキキとの出会いから七日。子の刻に入った頃。
「お初にお目に掛かる」
女――鬼人の女は軽く頭を下げ、
「温羅殿、いや、吉備冠者殿とお呼びした方が良いか」
そう話し、すっと前にいる大男を見つめた。
「……温羅でよい」
「分かった。では、そのように温羅殿」
「それで、わざわざこんな所まで何用か、京の鬼殿……名は確か」
「カナと申す」
「そう、カナ殿」
――横から静かに出される茶に鬼人の女、カナは顔を向ける。
「すまぬ、急に訪れたというのに」
「いえ」
にこりと微笑む女性……そして、長い黒髪から覗く白き角。
再び、大男、温羅へと視線を戻し、カナは微笑んだ。
「この吉備の地に鉄の技術を教え、その功により吉備を治めることになった。六位という京に登れぬ位を貰ってな」
「それで、蔑むためにわざわざ京から来たのか」
「気に障ったのなら謝ろう。けれど、その正体が鬼と知ったら京の人間はどうなっただろうな。その顔は見てみたかったが」
「お主達がもう滅ぼした。顔は見れぬ」
「ふふ、そうだな」
狩衣を纏い、烏帽子を被り……角が隠れたその姿は只の巨漢の人間にしか見えない。ただ、互いに鬼と分かってそれで尚角を隠すのは、烏帽子を取るは恥という人間の決まりを守っているのか。
(どうやら変わり者の鬼らしい)
そんなカナの心の呟きが分かったのか、温羅は視線を鋭くすると面倒なように呟いた。
「……喋るのが用なら、他に行ってくれ」
「すまぬ、話せる鬼は少ない故、つい」
「ふん」
温羅は鼻を鳴らし、茶を飲んだ。
カナも同じく茶を手に取り――温羅の横に座る茶を出した女へとふと視線を向ける。
「そなたは……」
「はい、妻の阿曽と申します」
「ほう」
結婚までしているか――そのことにカナは多少驚いた。そもそも鬼は同族という意識しかなく、家族という考えはない。家族という括りに意味を感じないのだ。
更にいえば、『妻』と話したこと、つまり、男と女で分けていることも理解できないことだった。もちろんカナが女であるように、鬼にも男と女が居る。だが、身体の違いだけで分けて考えることはなかった。
余程の変わり者の鬼か――とはいえ、
(我もキキを妹子にしようとしたわけだが)
カナは笑った。キキを一目見て可愛い幼子と思い、側に置きたいという気持ちが家族の情というのであれば、妻となり結婚するということも分からないこともないかも知れない。




