十一
『キキは、鬼人の事、京の動きはどうなると思う』
それは、鬼人の女との戦いを終えてからの評定でのこと。最早、評定にキキが居ることを不思議に思う者は居ない。
そんな中で、咲久夜はキキに問いかけた。
『……鬼がこちらを攻めて来ないのは、攻める力がなかったからだと思います』
キキは少し迷った後――まだ自分がこの場に居て発言していいのかキキ自身が迷っているのだろう――静かに話し始めた。
『京での戦いで、鬼もかなりの数が減り傷を負ったはずです。一年間、鬼が動かなかったのも傷を癒やし準備を整える為だったのではないかと』
――その幼子の言葉に。
『…………』
評定に居た全員があっと気付き、そして、奥歯を噛みしめた。
そうなのだ。陰陽師や武家の強者が揃っていた京での戦いで、鬼が無傷なはずはなかったのだ。そのことに今更になって気付く。
『やはり、すぐに攻め入るべきだった……!』
拳を握り、須佐が呻いた。
それは、その場に居た誰もが思った事――けれど、
『……いえ』
キキは静かに首を振った。
『こちらへ攻める力……体力はなかったかもしれませんが、おそらく鬼が負けることはなかったと思います』
鬼が負けることは無い――言いにくいことを簡単に言う、咲久夜が苦笑する中、キキは、
『あの鬼の女性……そして、もう二人同じ力の人がいれば、その三人でこの陣全員と戦えると思います』
鬼を『人』と現す、驚きと怒りの視線を浴びながら、それでも常と変わらずそう話し終えた。
――キキと出会ってから、たった半月。それなのに随分長く感じ、状況は変化した。
「季節はゆっくり変わっていくというのに……」
「咲久夜様?」
「いや、キキは野分のような子だと思ってな」
「ああ、成程」
キキを野分――台風と喩えた事に那都は笑った。長く接して分かったことだが、キキは物静かで、どことなくのんびり……いや、ふわふわというべきか、そんな性格をしているが発する言葉、戦いの動き、その存在がまるで野分だった。
「そういえば、そろそろ野分の時期ですね」
「そうだな、戦いで忘れそうになるが、季候を把握するのも陰陽師の務め。調べておいてくれ」
「はい、では照灯にも伝えて置きましょう」
「頼む」
咲久夜は空を見つめた。雲一つない晴天――けれど、
「さて、どちらの嵐が来るが早いか」
野分という嵐が来るが早いか、それとも、鬼という嵐が来るが早いか――咲久夜は呟き、
「嵐での戦いか」
ふと一言そう続け、夏の風が流れる中、もう一度空を見つめた。




