十
「はは、成程、そうか」
那都の話に咲久夜は笑った。邪魔になると思い、今は照灯がしている座学の部屋から抜け廊下を歩いている。
「キキは術もあまりやりたがりません。照灯はキキならば神楽を必ず舞えると言っているのですが」
「ふむ……」
確かにキキのような真っ直ぐな子、術も神楽も成せるというのは咲久夜も思う。が、キキがやりたがらないというのも逆に不思議な感じがした。
「キキ自身が神だからかもしれぬな」
「だから、神楽をしようとしない……」
まさか、と言いそうになって、そう言えない自分がいることにも気づき那都は益々苦笑した。
「咲久夜様から言われると、本当にそうではないかと思ってしまいます」
「わしも自分で話していて、そうではないかと思えてきた」
互いに笑い、そして、足を止め外を見つめた。
「暑くなってきたな」
「はい」
夏至から一ヶ月あまり、季節は大暑――
「宇加はもう出雲に着いた頃でしょうか」
「そうだな」
宇加に文を託し、出雲へと向かわせたのは七日前のこと。
鬼人、鬼兵の存在。笠形山陰陽寮の現状……そして、キキの事。
それを、出雲に居る咲久夜の姉、陰陽頭でもある花知流へと伝えるため、まだ傷が完全には癒えていない和可は動かさず宇加一人で行かせていた。
(文など出さず、すぐにでもキキを連れて行きたかったが……)
現状が目まぐるしく変わってきている。武家……須佐は鬼人の女の力を知り、京への進軍を軽々しく言わないようになったが、逆に京から笠形山へ攻め入られる事を考えなければならなくなっていた。咲久夜も自身に叱責したことだが、鬼から攻められることを今まで考えていなかったのだ。




