九
「しかし、照灯は楽しそうだな」
「京のことを思い出すからでしょう。照灯は屋敷でも街でも、幼き子に学問を教えていましたから」
「そうだな」
そういう照灯だからこそ、キキを人一倍構ってしまうのだろう。少し過保護なところもあるが。
「志伊と伊奈の様子はどうだ」
「元々、陰陽師は女所帯ですからね。男ばかりの武家よりも生活はしやすいかと……武家でどういうふうに過ごしていたか分かりませんが、少なくとも不満などはないように見えます。伊奈はよく和可と一緒に料理もしているようですし」
「訓練のほうは?」
「武家でも訓練していたのでしょう。剣ならば志伊はそこらの兵よりも強いし、才もあります。伊奈は戦うということ自体が苦手のようですが、照灯は術の才はあるのではないかと」
「ふむ、そうか……ならば、キキはどうだ。あまり楽しそうにはしていないが」
「そうですね……」
那都は苦笑し、咲久夜と同じくキキへと視線を向けた。
「難しいです……純粋過ぎるからこそ、真っ白過ぎるからこそ、教えることが逆にキキを曇らせてしまうのでないかと」
数日前のことを思い出す。那都がキキに武術を教えようとした日のことを――
『さあ、まずは好きに打ち込んでみて』
『――――』
那都の言葉に、キキは迷うように悩むように握った木刀を見つめた。
『? どうした、キキ?』
『いえ……那都様、わたしは殺す戦いしか知りません』
『…………』
幼き子の澄んだ声でそう伝えられ、那都もまたどう応えていいか分からず口をつぐんでしまった。
考えれば、キキは誰からも教えられず教わらず、あれだけの戦いをし鬼を倒した。それは武術ということだけでみれば、おそらく須佐や礒猛よりも上。この陣で一番の実力ということだった。
殺す術しか知らないというのは悲しいことだが……それでも、だからといって、そんなキキに何かを教え変えてしまっていいのか。
(……キキには何も教えないほうがいいのかもしれない)
那都は内で呟いた。
自然、そのままのほうがいいのかもしれない。何かの型に嵌めてしまえば、キキは逆に弱くなる。そう感じる。
もちろん一から習うのなら型を覚えることで強くなれる。だが、キキはすでに強い。型を覚えてしまえば逆に動きを狭めるだろう。
(とはいっても)
那都は苦笑してしまう。志伊、伊奈と共にキキにも武術を教えてくれと咲久夜から頼まれたが、教えることが無くなってしまった。
『キキ、隠れん坊でもする?』
『いえ……那都様』
断られ那都は笑い、キキの頭を撫でた。




