八
「――心だに誠の道に適ひなば 祈らずとても神や守らん」
リン――と照灯の懐から鈴が静かに鳴る。と同時、『何か』が照灯に纏い、部屋を満たした。
静かに透き通った清廉の気――
「この空気、この感覚を覚えておいてください。『誠の道』とは心の在り方。けれど、心は目に見えぬもの。だからこそ、この空気を姿勢を覚えておいてください」
瞳を開け、照灯はにこと微笑んだ。
神気を纏ったその微笑みに志伊と伊奈は見とれ、「はい」と頷いた――キキだけは常と変わらずにこくりと頷いただけだったが。
そんなキキに苦笑しつつ、照灯はふっと息を付き、神迎を解く。
「話を戻しましょう。神迎は少しでも心に迷い……穢れがあれば成すことはできません。穢れとは、恨みや憎しみ、怒りや貪り、そして、苦しみに染まることもまた穢れとなります。ですが、心を無にし、感情を無くすことが『誠の道』とは言わず、むしろ、全ての感情を持って尚、正道を歩もうとすること。それが、『誠の道』になるのではないかと私は思っています」
「…………」
「ごめんなさい、難しい言い方をしましたね。そうして、理屈で覚えることも神楽から遠ざかるというのに……」
困惑する志伊と伊奈に頭を下げ、照灯は続けた。
「ともあれ、神迎が整わなければ神楽は出来ません。問われるのは己の心だからこそ、神楽は難しいのです。そして、だからこそ、神楽を舞える者は少ない。だからといって、鬼をのさばらせる訳にもいかない。鬼を調伏するには強い式が必要だったのです」
そこで、照灯は和可へと視線を向けた。
「神楽を舞えるということだけでも誇っていいことです、和可。貴女は必ず良い陰陽師になります」
陰陽師に、強い術者に成ることを焦っている和可を思っての言葉。それは、照灯が和可のことを気にかけ常に見ている現れでもあった。
それがよく分かるからこそ、
「……有り難うございます、照灯様」
溢れる感情に和可はきゅっと拳を握り、溜まった涙を見せないように頭を下げお礼を言った。
「さて、象術、式術は神楽を舞うための祈りを深めるものでもあります。象術から始めましょう。陰陽師は天文、地相、季候、天候を調べ政を助けることが仕事ですが、季候、天候、つまり万象を知っているからこそ象術を使うことができ――」
「――やっているな」
「咲久夜様」
小声でかけられた言葉に、那都は寄りかかった背を正し振り返った。




