七
「これは式術。万象を操る象術とは違い、『念』……といってしまうと少し難しいですね、『心』といったほうがいいかもしれません。動物や人、怪士の心を紙に宿らせ使役する。ただし、自らの心を込めることや混ぜることは禁じられています」
「何故ですか?」
伊奈がそっと手を近づけると蝶はひらひらと舞い指へと止まった。それを横目で見つつ問いかけた志伊に、照灯はくすりと笑いながら、
「式が壊された場合、術者にその全ての反動が来ます。自身の念がこもっていれば、それは心が壊されるのと同じ。どういうことか分かりますね」
「でも、そんな危険な術なら、使わない方がいいのでは……」
『心が壊される』という言葉にびくりとする伊奈へ「その蝶は大丈夫ですよ」と微笑み、続けた志伊の問いに照灯は頷く。
「そうですね。確かに私達もあまり式術は使いませんが……ですが、それだけの力はあります。念というのは目に見えず形もないからこそ、強く深く底のないもの。邪念、怨念を式にすれば、鬼を使役することもできます。鬼によって鬼を調伏する、これは百年ほど前の陰陽師であれば当然でしたが、今は違います」
「今は?」
「ええ。邪念、怨念に接すれば接するほど、自身の内にも穢れが堪る。穢れが堪れば、やがて自身も鬼となる。なので、鬼を使うような式は禁術とされています」
「……何故」
「キキ?」
静かな声に、照灯は顔を向ける。キキは真っ直ぐな瞳で見つめながら、言葉を続けた。
「何故、初めから神楽を使わなかったのですか?」
「ふふ、そうですね。確かに初めから神楽を、神楽だけを使えば良かった。けれど、神楽は誰にでも成せるものではありません。キキは、神楽舞の初めを覚えていますか?」
「はい、『清』です」
「よく覚えていました。そうです、『清』です」
にこと微笑み、
「『清歌』、キキ、続けての問いです」
「『心だに誠の道に適ひなば 祈らずとても神や守らん』」
「そうです、ふふ、良い子です」
照灯は本当に楽しそうにキキを褒め、そして、瞳を閉じすっと姿勢を正す。




