六
(――あれから十日か)
鬼人の女と会ってから十日――あれから鬼出現の報せはない。
普通の鬼であれば単なる偶然とも思えただろうが、知性があり人間と同じ感覚を持つ鬼がいると分かった。策を練っているのか、ともあれ、何か考えがあることは確かだろう。
(……単純にキキを傷つけたくないだけかもしれぬがな)
あの鬼人の女ならそう思っても不思議はない。とはいえ、あの女が鬼の全てを決定できる長ということはなかろうが。
鬼兵ともいえる鬼が何体居るかも気になる。この陣だけでいえば、十体もいれば武家の半数は殺せるだろう。それでいて、攻めて来ないのは……
(慎重になっている、ということか)
人と同じであるならば、そう考えても不思議では無い。けれど、それでこちらが助かっているというのは皮肉でしかない。
ただ、慎重になる理由も無い。鬼が、鬼人がこちらを恐れているということもないだろう。評定でのキキの話……一年という時はこちらの準備ばかりでなく、鬼の準備も整えられる時間となってしまっている。それでいて、攻めて来ないというのは何か別の理由が……
どうあれ、
(力が必要だが……さて)
短い時間でどれだけ成長させられるか。そう内で呟き、咲久夜は目的の場所に向かい足を速めた。
――――――――――
「――『祈り』というのは陰陽の始まりであり、根本でもあります」
照灯は静かにそう話し始めた。正座した照灯の前には、同じく正座した志伊、伊奈、キキ。少し離れて、和可。そして、後ろには那都が腕を組み壁により掛かり立っていた。
「目に見えぬもの、目に見えるもの、その全てに神が宿っており、その神に祈ることによって力を得ます。神楽が一番分かりやすいですが、象術といわれる万象の力を操ることと神そのものの力を纏うことは当然ですが全く違います。『祈る』ということは一緒でも、質が違うというか……言葉で現すのは難しいですね」
照灯の膝元には楮紙で作られた形代が一枚。その形代に手をかざし、瞼を伏せ、口の内で術を唱える。すると、形代は蒼い羽の蝶と化し、飛び立ち髪飾りのように伊奈の頭へと止まる。




