五
「……姫様よぉ、困るぜ、ああいうのは」
「ああいうのとは?」
「はぁ、そういうところだよ」
惚ける咲久夜に礒猛は大きくため息を付く。
「あの二人が居なくなって武家の士気も下がっているし、困ったもんだ」
「女が居なくなった程度で下がるならそれまでということ」
「そう言ってくれるな。鬼の討伐は出来ているが、だからといって京で勝てるかどうかは分からない。先の見えない戦いに滅入ってもしょうがなかろう」
「……まあ、そうだな」
気が疲れるのは咲久夜にも分かる。実際、自身もキキに出会ってなければ恨みに心を支配され、戦いに疲れていただろう。
なお、大きく息を付く礒猛に同情もする。大きい身体が時折小さく見えるのは、それだけ心を砕き周りに接しているからだろう。それは自らの立場を理解しているからともいえるが、心痛で倒れないかと心配になる。
礒猛は先の鎮守府将軍、伊弉の右腕であり、幾度の死線を共にくぐり抜けてきた戦友でもあった。だからこそ、伊弉から頼まれ京から退くことを最後まで拒んでいた須佐達、武家の若い者を説得する役目を担い、後のことを全て任され共に退いた。
須佐の叔父とも言える存在であり、今や武家全体のまとめる立場にもなってしまっている。武勇で名を知られた礒猛が慣れない内務をしているのもあるだろう。隠そうとしているが、疲れがあるのは間違いない。
「愚痴くらいであればいくらでも聞こう、礒猛殿」
「それは有り難い……が、キキ坊に稽古をさせてくれ。そのほうが気が晴れる」
「ははっ、そうか。キキに伝えておこう」
キキは誰に対しても妙薬となる――礒猛の言葉に咲久夜は笑った。確かに、キキのように武家や陰陽師に染まっていない真っ白な子と稽古をしていたほうが心が安まろう。
「あー……だが、キキ坊と会っていると若がなぁ」
「まったく苦労が絶えぬな、礒猛殿は」
「まあ、それでも可愛い奴らだよ、若も武家の連中も」
「武家の中には礒猛殿を父と慕っている者も多い。須佐殿も父と思っているからこそ甘えているのだろう」
「そうかい、親となれていればいいが」
礒猛は笑い、笑顔が戻ったことに咲久夜もまた微笑み、その場で別れた。




