三十五
「貴様……鬼を弔ったというのか」
須佐から向けられる言葉と瞳……憎悪の籠もったそれに、キキは振り返り、そして、小さく頷いた。
「……はい、死ねば骸、捨て置くのは忍びないと思い」
「鬼は敵だ。貴様はどれだけ多くの人間が食い殺されたか知っているのか」
「知っています」
「ならば何故、骸を埋めた!」
――わたしは、親に殺されました。
と、それは伝えることなく、キキは別のことを伝えた。
「須佐様。わたしは、親に捨てられました……ですが、親を恨んではいません」
キキの瞳は言葉はどこまでも澄み……偽りなく真っ直ぐに続けた。
「人がいくら殺されたとしても、わたしは恨みで戦うことはありません。自分の意思で戦い、命を奪います。命の業は全て自分で背負います」
そして、キキは微笑んだ。
「咲久夜様達が殺されたのなら、少し心が動くかもしれませんが……それでも、戦うは自分の為です」
「キキ……」
言葉に咲久夜は思わず苦笑した。それと共に、知らず重くなっていた心も晴れていく。
「キキの事を知れたのは良いが……男よ」
咲久夜とは反し、女は重く――どこまでも重く、冷たく呟いた。
「キキと話しているのは我だ、人間が邪魔するな」
―― ――
その刹那、無音で何かが一帯を支配した。
その圧に和可と宇加は膝を折り、地に手を付いた。身体の内側から来る震えとのし掛かる冷たく重い空気。意識を保っているのがやっと……
神楽をすでに成している照灯と那都でさえ動けなくなっていた。
「――――っ」
奥歯を噛みしめ、だけれど、神の力の一端でさえ纏っていない須佐では抗するのは難しく。
太刀を地に刺し、倒れ伏しそうになる身体を何とか押し止める。
「ふっ――」
圧はあるが動けぬほどではない――咲久夜は鋭く息を吐いた。後ろを見たわけでは無い。女から目を離すわけにはいかない。
だが、皆が動けなくなっていることは分かっていた。そして、次に雷を撃たれれば避けることはできない。




