三十二
「童女、いや、キキ。可愛い子よ、我と共に来やれ」
「…………」
「幼子でありながら陰陽師の衣を纏い、けれど、術を使わず刀で鬼を斬る。その存在、人はやがてお前を忌む。人の外なる者を人間は怪士と名を付け、特に凶なる怪士を鬼と呼んだ。キキ、鬼鬼、鬼子よ」
女は一歩踏み出した。長い袖を揺らし、黒い髪は月に燦めき、尚、キキへと手を伸ばし誘った。
「可愛い子の悲しみ苦しむ姿など見とうはない。キキ、我が妹子としよう。来やれ」
「――分かりました」
「キキッ!」
「ふふ、本当に愛い子」
女は微笑んだ――その刹那。
――それはまるで雪のように。
いや、この時期に雪が降るはずがない。狂い雪か――そうとも思える、燦めく雪。
そう、その字の顕しのように火の粲粲たる姿、鮮やかに輝いた美しい火の粉が女の周囲に舞い落ちていた。
「――出で立ちませる神ぞ貴き」
リン――と鈴が鳴る。
そして、
『木花咲耶姫』
咲久夜は静かにその御名を呼び顕し、その力を纏い。
「連れて行かれては困る――その子は我らの家族だ」
そして、鋭き視線を鬼人の女に向けた。
神楽舞の途中から、その力が示される。それだけの神降ろしが出来るのは、今や咲久夜と姉の花知流。その他の数名しかいない。
神の力の一端を借りる自分とは違う、神そのものの力……神纏。
「……和可」
声をかけられ、和可は振り返る。
「遅くなった、ごめん」
「宇加……」
「でも、良かった無事で……キキも」
周囲を見渡し、内で起こっている感情をどう表していいか分からず宇加は幼子の名を呟いた。
しかも、キキは先程鬼人の誘いを受けていた。もしかしたら何か考えがあるのかもしれないが……
「宇加」
和可は宇加の手を強く掴み、真っ直ぐに見つめた。
「私は全部を見てた……キキの戦い全部。キキの戦いを見たら分かる、あの子は邪な心を一片も持っていない。戦いの中でさえ遊ぶように微笑み、そして、鬼を哀れんだの」
ギュッと自身の心を伝えるように、尚、和可は強く手を握った。
「キキは私を助けてくれた。私はキキを信じる」
「……分かってる」
和可の表情に宇加は苦笑し続けた。
「私だって、キキを嫌いになんてなりたくない」
「……うん」
「少し離れよう。照灯様達も来てる」
「うん」
二度頷き、宇加に引かれ和可は立ち上がった。




