三十一
全てが終わり、森は静寂に包まれていた。
和可でさえ息をするのも忘れ、時が止まったようにキキを見つめていた。
――けれど、太刀を地に刺し、ゆっくりと歩き出したキキにようやくにして和可は声を上げた。
「キキ……!」
キキは地に落ちた白き花を手にし、倒れた鬼兵の背中に添え――そして、和可へと顔を向け僅かに首を振った。
「……?」
その意が分からず戸惑う。が、キキは落ちていた折れた小太刀を手に取り、森の闇へと視線を向けた。
サァァァァ――
風が流れ、月の蒼い光が葉の間から闇を照らす。
――その者は足音もなく現れ、浮かび上がる白き肌、細い指を顔へと近づけると微笑んだようだった。
「鬼を弔うか……童女、お前が姫沙羅の子か?」
女の声が響く。キキは応えず、ただ頷いた。
「そうか、お前が」
その者は――女は優しく愛おしむようにキキへと言葉を続け、一歩踏み出した。
「――――」
和可の息が再び止まる。
月明かりの元に現れたその者――黒き装束に艶やかな紅き彼岸花を咲かせ、長い袖を揺らし、白き肌、長い黒髪、切れ長の目、目尻と唇には紅化粧。
その姿は位の高い姫君、いや、神楽舞をする自分達から見れば八百万の神の一人かとも思える。
けれど、それが決して人でもなければ神でもないことは一目で分かった。
黄金の瞳と――黄金の二本角。
人ならざる者。姿形は人であるのに信じられないが、それは鬼だった。
和可の姿に気付いていないはずはなかったが、鬼の女――鬼人の女は元より居ない者のように気にすることは無く、その瞳はキキを見つめていた。
(なんと愛い子か)
人間に対してそんな情を持ってはいけないとは思いつつも、女はそう感じ自然に微笑んでいた。
「可愛い子よ、名はなんという」
「キキといいます」
「ふふ、そうか」
こちらが鬼と分かって、敬語を使う。そのことに女はまた笑う。
「キキ、キキ……ああ、何と良い名か」
女はその綺麗な白い指を伸ばし、キキを誘った。




