二十七
「……キキ」
窮して益々猛る――幼子の微笑みに和可はその名を呟いた。
そして、悟る。キキが危なくなったら助けようなどと、なんて倨傲なことを考えていたのだろう。
自分には鬼を前にして微笑むことなど出来ない。しかも、言葉を話し、鎧を纏い、刀を振るう鬼――鬼兵ともいえる鬼までいるのだ。
キキのように、戦いに微笑み遊ぶようにはできない。
だからこそ突き立てられる。未だ自分は戦いの場所に立っていないのだと。その場に立つ資格すらないと。
そして、だからこそ。
惹かれ、祈る。キキの姿に、無事を、武運を。
祈るしかできないと分かっても、和可に嘆きはなかった。
祈りから始める――それは神楽、いや、陰陽師の始まりでもあるのだから。
――――――――――
――――ザッ
鬼の目にキキの姿が写ったかどうか。
一足で鬼の懐に入り、キキは身体を登るように肩に手を添え首に上がった。本来なら飛び上がって刃を深く突き刺さなければ鬼は殺せない。だが、太刀を持つ大鬼が居る以上、迂闊に飛び上がるのは危険だった。
無論、手の力だけでは深くは刺せない。だからこそ。
「ガァ――!」
キキは髪を掴み後ろへと体重をかけ鬼の背を反らせた――そして。
ガンッ――
後ろから迫っていた大鬼……キキを狙った鬼兵の太刀が鬼の顔を潰す。その時には、小太刀が鬼の首も貫いていた。
声もなく絶命した鬼の首から小太刀を抜き、後ろへと倒れる寸前に抜けだし死角から鬼兵の右腕に刃を突き立てる。
「グァアッ!」
鬼兵が腕を振り払う。が、キキはもう次の鬼へと駆けていた。
元より深く傷つけようとしたわけではない。『刀を持つ手を』少しでも傷つけられればよかった。
ヒュ――と息を吐き、キキは周囲に視線を向けた。今殺した鬼を除けて残りは五、七……八体。
開けた場所から少し離れ、今は木々の中。キキにとっては都合のいい場だった。キキの速さに鬼はついていけない。しかも、戦う前とは違い鬼兵以外はキキに恐れを抱いていた。一斉に飛びかかられることはないだろう。
闇に紛れ、木を蹴り枝を渡り――
ザクッ――
鬼の一体に頭上から首へと小太刀を突き刺し、肩を蹴り飛び上がった。後七体、そして。
(これで、六体)
近くに居た鬼がこちらに気付くが、遅い。小太刀の頭に手を添え鍔に片足を乗せ、キキは鬼の首に刃を突き下ろした。




