二十六
(――注意が逸れた。しかも、戦う『気』がなくなっている)
そうなれば、斬るのは容易い。キキは新しい小太刀を抜き、一体、また、一体と鬼の後ろから首を斬っていく。
そして、
「……大丈夫ですか、和可様」
「キキ……」
瞬く間に三体の鬼を斬り倒してかけられたその言葉に、和可は嬉しさよりも驚きと戸惑いを持ちながら幼子のその名を呟いた。
鬼の身体がこっちを向いた瞬間、何とか逃げようと考えたその刹那だった。自分が動くよりも早くキキは疾風のように駆け、鬼を倒してから側へと寄ってきた。
初めて見るキキの戦い……まさかこれほどとは思っていなかった。
しかも、
(無邪気に遊ぶように、本当に楽しそうに……)
「和可様、少しだけ離れていてください。わたしが鬼を全て倒します」
向けられる瞳、でも、それは純粋な幼子のままで――鬼神の如き戦いをしている子とはとても思えず。
「……はい」
和可はただ頷くことしかできなかった。
「赤子ォォオオオッッ!!」
雄叫びは闇夜に響き、大鬼はキキに飛びかかり――けれど、
ガンッ!
キキは飛び上がり大鬼の顔を踏み蹴り、尚高く舞い上がった。
この大鬼が周りの鬼達の将だということは分かった。ならば、先に倒すまで。
首に目掛けて刃を突き下ろす。それは他の鬼と同じ、必ず殺せるはずだった。
だが、
「ガァアアアッ!!」
大鬼は他の鬼よりも早く反応し、太刀を頭上へ振り回した。身動きがとれない落下している状況、キキはわざと迫る太刀に刀をぶつけその力で横へと流れる。
地に降り、たんたんっと軽く飛び退いて体勢を直すとすぐに駆け出す。鬼の将だけではない、まだ鬼は残っている。
和可へと近づこうとする鬼の首を斬り……だが、小太刀の切れ味が悪くなっていることに気付く。
(刀で受け過ぎた)
大鬼の太刀の力が強いのだろう。捌いていた小太刀に僅かな刃こぼれがある。
苦しみ絶叫する鬼に一瞬だけ悲しみの視線を向け、けれど、謝する時はなくキキは尚駆け出す。
小太刀二本が使えない。ならば、後は一本。護刀と与えられた短刀一振り。
懐から出し、キキは飛び上がった。落下する中で護刀を抜き――
「――――」
だが、鬼の頭を踏み飛び上がり、ざざっと地を滑り膝を突いた。
キンッと護刀を納め、懐へとしまい、そして、鬼の前でゆっくりと立ち上がる。
――この刀は軽々しく使ってはならない。瞬間、そう頭に浮かび斬るのを止めた。
最初の刀、刃こぼれしていない小太刀を抜き鬼へと視線を向ける。鬼は怯えがありつつも、それでも雄叫びを上げ襲いかかってくる。
「オォォォオオオオオッッ!!」
鬼の雄叫びが重なる。鬼のすぐ後ろに、将である大鬼も迫っていた。残っている鬼も和可に向かっている。
――ふぅ、と大きく息を吐く。
斬れない刀、鬼に囲まれ、更に仲間を護りながら戦う、一体は他の鬼よりも強い、そして、傷ついてはならない。
(乗り越えられるか?)
瞳を一度閉じ――キキは知らず笑っていた。
望んだ乱世、望んだ戦い――望んだ死地。
「ここが、わたしの舞台」
キキは小さく囁いた。
「いざ、参る」




