十五
「――っ!」
声に応えるように、山彦の如く周りからも雄叫びが響いていく。
「……囲まれてる」
「退くよ、和可っ!」
呆然と呟く和可の手を掴み、宇加は駆け出した。
「隠れていた……鬼が?」
「今はそんなこと――っ!」
走りながらも今だ疑問を向ける和可を叱るように叫び、宇加は手を握ったまま飛び上がった。
進んでいく方向に黒い影が浮かび上がる。視線の端にも動いている影が見える。けれど、目の前に出ることを避け、木の枝を飛び移っていけば安全のはずだった。いくら囲まれていようと風の力を纏ったこちらの速さに追いつけるはずがない。
――そのはずだった。
「グァアアアアアアァァアッ!!」
鬼が飛び上がり枝を薙ぎ払った。その行動に、宇加は驚きと共に内で呻く。
(……普通の鬼とは違う!)
和可のように考え込みたくはないが……枝を飛び移ることを防ぐようなその行動。まるで知があるような……
「――和可っ!」
宇加の呼びかけに、和可は瞬時に理解する。
鬼は飛び上がり枝を薙ぎ払える、そして、周りに鬼がどれだけいるか分からない状況。鬼を避けながら木々を渡って行くのは危険だった。
ならば。
二人は地に降り駆け出した――一体の鬼に向かって。
(鬼を避け続ければ、動く範囲が狭まって身動きがとれなくなるかもしれない)
そして、
(動くなら二人一緒に。別れて行動して鬼が正面に現れたら一人じゃ対処できない。でも、二人なら)
そんな宇加の考えは和可も分かっているはずだった。
問題があるとすれば……二人とも鬼に対するのはこれが初めてということ。
「グアァアァアアアアアッ!!」
鬼が雄叫びを上げる。
鳩尾から来る震えを必死に押し殺し、宇加は、そして、和可は腕を薙いだ。
ザァァァァァァァ――
風が巻き起こり、木の葉が一面を覆う。
塞がった視線、その刹那に鬼の横を通り過ぎ――
「グゥゥォオオオオッ!!」
葉を払うように我武者羅に腕を振り回し、鬼は周りの木々をも薙ぎ払った。




