十四
ここまで鬼に近づくのは初めての事。本来なら数と位置だけを把握すればいい、鬼に近接する必要はなかった。
「――――ゥゥゥ――――」
微かに鬼の唸り声が聴こえ、和可は息を止めた。
「――グゥゥゥ――」
鬼は集まって唸りを上げているだけ。話しているようには見えないが、もしかしたら、これが鬼の言葉で何か通じ合っているのかもしれない。
距離は三丈ほど、これ以上は危険だ。それに、鬼の考えが分からないのなら、近づく意味もない。
(……でも)
一瞬の逡巡の後、和可は屈んだまま一歩踏み出した。
未だ何も分かっていない。ここまで近づいたのなら、鬼の姿を確認してから――
「ハァハッ」
鬼の笑い声と、ガチャという何かの音――その刹那。
「――――!」
身体を掴まれ、和可は息を止めたまま――声を上げられないまま振り向いた。
「――和可、近づきすぎ」
「……………宇加」
ようやくにして吐いた息と共に肩を掴んだ相手の名を呼ぶ。
「脅かさないで、宇加」
「それはこっちの言葉。こんなに鬼に近づくなんて……」
小声で叱ってくる宇加に、とりあえずほぅと大きく息を付き。
「危ないのは分かってる。でも、宇加も見てるでしょう、鬼が何もせずに立ち止まっているなんておかしい」
「確かに変だけど……でも、これ以上は駄目。鬼に見つかる」
反論する和可に鋭く視線を向け、宇加は強く続ける。
「それに、動かないのなら都合がいい。早く咲久夜様達に報告しないと」
「そうかもしれないけれど……」
「見つかる前に動こう」
「――鬼が笑ってたの」
早速動き出そうとする宇加のその背に、和可は一言呟いた。
「……どういうこと?」
「鬼が笑ってたの。喜んで雄叫びを上げる姿は見たことあるけど……笑い声を聴いたのは初めて。それに」
ガチャという音、あれは聴き慣れた音だった。あの音はおそらく……
「グォォォオオオオオオッッッッ!!!」
瞬間、雄叫びが闇夜に響き渡った。




