十三
鬼は人間より足が遅い。それは人間離れした巨躯のせいかもしれないが、走るということもない――人間を追いかけようとする時以外は。
そう、人間という目的があれば動きが速くなるが、そうでなければ彷徨い歩くだけ。自分達が初めに鬼を見つけた場所からそう離れないだろうことは予想の内だった。
(見つけた……けれど)
和可は心の内で呻いた。これは予想の外だった。
遠くに見える木とは異なる黒の群れ――鬼の影。
鬼は群れをつくることはない。だからこそ数と位置が把握しにくいということがあるのだが。
今は何故か鬼が群れている……人間の住む村が近くにあるわけでもないのに。
(……どういうこと?)
何故か無性に嫌な予感がした。何の目的で集まっているのか……
(何かがおかしい気がする……もっと調べてみないと)
タンッ――と木の上に上る。鬼に見つかった場合の対処だった。枝を飛び移っていけば鬼に捕まることはない。
(数も足りない。集まっているのは……おそらく十体ほど。あと六体はいるはず)
一つ一つ木の枝を渡りゆっくりと近づきながら、和可は黒い影へと目を凝らした。
神の力を纏っているとはいえ、あくまでそれは風の力。夜目が利くわけではない。しかも、森の中で月の明かりもあまり届かない。
それは斥候をしていれば慣れたことではあったが……今はそのことに酷く焦りを感じてしまう。
(周りにはいない……はず。それに、何を集まってるの?)
何かを話している……いや、まさか鬼が話をするなんて見たことがない。
では、何故移動もせずに集まっているのか……まるで、何かを待って……
(……待ち伏せ)
一瞬、浮かんだ言葉にぞっと背筋が凍った。まさか、とは思う。鬼が待ち伏せなどということを考えるわけがない。
それに、待ち伏せならばこちらの動きが分かっているということ。そんなことはあり得なかった。
……けれど、
(確かめないと)
和可は内で強く呟いた。現に鬼は動かずに止まっている。何かが起こっていることは確実なのだ。ならば、それを確かめなければならない。
(…………)
もう一度周りに視線を向ける。木を渡っていくのが安全だが、鬼の側までとなるとさすがに枝や葉の音で見つかってしまう。
だとすれば、下に降りて近づくしかない。
――トッ
地に静かに降り、和可は膝をついた。このまま屈んで進んでいく。
(大丈夫、見つからないはず。見つかっても、風を放てば少しは怯ませられるはず……)
少しであれば風を操ることができる。もちろん鬼を吹き飛ばすほどの力はないが、一瞬怯ませるくらいならできるはずだった。
(……大丈夫、恐れるな。キキも戦うのなら、私も戦えるはず)
自分に言い聞かせ、目を閉じ、深く息を吸い込む。
――そして、和可はゆっくりと進み出した。静かに、音を出さず、息を殺して。




