九
「キキ」
不意に呼ばれキキ、そして、和可と宇加は声のほうへと顔を向けた。
見ると咲久夜、照灯、那都がこちらへと歩いて来る……と、そこですぐにキキの変化に気付き咲久夜は問いかけた。
「どうした? なにかあったのか?」
「いえ、咲久夜様と須佐様達を見て懐かしく思い……京のことを話していました」
「……そうか」
キキの代わりに答える和可に咲久夜は苦笑し……けれど、今は耽る時ではないとも理解し、すぐにいつもの表情に戻る。
そして、その時にはキキもまたいつもの表情へと戻っている。そのことに満足し、咲久夜は声を発した。
「参るぞ、キキ。お前が先陣だ」
「はい」
「……本当に困るよ、お前には」
一切の迷いのない返事と真っ直ぐな瞳。キキの意思は変わらずと分かっていても咲久夜はふっと息をつき。
「その小太刀では心許なかろう。護刀だ、受け取れ」
懐から小太刀よりも短い刀――決して豪華な拵えではないが品があり、物言わずとも見る人全てを包むような短刀を取り出した。
「咲久夜様、それは茅乃様の……」
「よい」
驚く照灯に咲久夜はゆっくりと首を振る。
「茅乃様?」
「母上のことだ。この刀は京から離れる際に母上から受け取った護刀……お前が持っておけ」
「受け取れません」
それは母の形見。そう分かって断るキキに咲久夜は微笑んだ。
「お前を護るために渡すのだ。受け取れ」
「ですが、そんな大切な刀を血に染める訳にはいきません」
「ははっ」
あまりに正直なキキに――護刀と伝えているにも関わらず、すぐに武器として使うことを考えているキキに咲久夜は笑い、手を取り刀を握らせた。
「いいのだ、存分に使え。刀を護ろうとせず、刀で己を護れ。その為の護刀だ」
「ですが……」
「母上も喜ぶ」
「…………」
咲久夜にそこまで言われてしまうと、それ以上は何も言えず。
「分かりました」
キキは手にある刀をきゅと握った。
「よし」
咲久夜は嬉しそうに、褒めるようにキキの頭を撫で、そして、和可、宇加へと顔を向けた。
「準備は良いか」
「はい、いつでも」
和可が応え、宇加が静かに頷く。
ようやく納得させたのか、副将二人から離れ須佐もこちらへと歩いて来ていた。




