八
「鬼が増えていることは確かだ。ここの護りは任せる。討伐は俺一人が行こう」
「須佐様、しかし」
「しかしなあ、若」
それは陣から少し離れた森の中――命じる須佐に副将二人は口を揃えて反論した。
「あちらの言葉を信じるなら、あの幼子が一人で戦うというのだ。ならば、俺も一人で行く」
「だからといって、大将一人を行かせる軍がどこにある、若」
「そうです。せめて我らだけでも」
「大丈夫だ」
「…………」
「安心していい礒猛殿、射楯殿。我らもいるのだ、負けることはなかろうよ」
何を張り合っているのか、明らかに意固地になっている須佐に礒猛と射楯が困る中、咲久夜は安心させるように……ということはなく、油を注ぐように続けた。
「それに、先程一人でも鬼を倒すと言ったのは須佐殿だ」
「姫様よぉ、そういう巫山戯は止めてくれねえか、只でさえ若は……」
「只でさえ……なんだ、礒猛」
「……恨みますよ、姫様」
「ははっ、恨みを引き受けるのも陰陽師の仕事だ」
――それは、なんでもない只の会話。
けれど、
「……キキ」
周りの者には「只の」ではなかったようだ。和可はキキに顔を近づけると、そっと問いかけた。
「一体中で何があったのですか?」
「何が、とは?」
「咲久夜様と武家の人達がこうして笑って話すなんて……今までなかった」
(……成程)
和可に続けて口を開く宇加にキキは内で笑った。
談笑するだけで驚かれるとは、今までの陰陽師と武家はおそらくは評定以外では話すこともない関係だったのだろう。
「まるで以前のように戻ったよう」
「以前……京のことですか?」
「はい。咲久夜様の御父上、満津見様と先の鎮守府将軍……伊弉様は親しい仲でした。占筮を笑い信じなかった武家の者達を退かせたのは伊弉様が満津見様を信じたからに他なりません」
和可は「けれど、だからこそ」と瞳を伏せ続けた。
「須佐様は陰陽師を許せなかったのだと思います。伊弉様と共に戦えず……京が落とされてしまった」
――京の話をする時、皆一様に視線を落とす。それだけの事があり、そして、今も取り戻せずにいる。
家族や親友、大切な人が沢山いたはずだ。その悲しみを、憎しみを、怒りを……無力や虚無、その全ての情を皆持っている。
「…………」
キキもまた視線を落とした。
――キキにはよく分からない。分からないが、その事、悲しみの事は分かる。
頭では、分かる。けれど、情では――それは経験していないという意味ではなく――理解が出来ない。
「キキ、ごめんなさい。貴女まで私達の想いを背負うことはありません」
余程悲しく見えたのか、そう優しく微笑む和可に、キキは首を振った。
「いえ……申し訳ありません」
それは何に対しての謝罪だったのか……謝るキキに和可はただそっと頭に手を置いた。




