十八
「ああ、哀れ頼通殿。権勢に囚われるあまり鍵は自ら造った平等院に隠し、尚、死出の後、竜となりて宝を盗られまいと宇治の宝蔵を護るとは」
「我が名を呼ぶとは其方何者だ……何をするつもりだ」
「御安心を……頼通殿のその業念、そして、宇治の宝蔵に秘め隠したる物、私が全て解き放ちましょう」
「ガァァァアアアアアッッッ!!!」
白竜の咆吼に坊主達が転げ、篝火が吹き飛ばされた。
「ならぬっならぬっ!! この宝蔵に納めたるは我が一族の栄華の極み、我が一族の力の証っ!!」
「ふふ、陰陽師が封じ込めたる術を我が一族の力の証といいますか」
「黙れ、黙れっ!! それを奪おうとするのならば、その命無いものと思えっ!!」
「ふふふ……」
月の閃光のみとなり川面が白く煌めく中、風に袖揺らし、立烏帽子は静かに笑った。
――果たして、畏怖を与えているのはどちらか。
「ガァァァアアアアアッッッ――――!!!」
竜は口を開け手を開き、その鋭き牙と爪で漆黒の者へと襲いかかった。
面布が揺れ、僅かに浮かび――白き肌が月に照らされる。
瞳までは見えず、けれど、その美しい唇から、澄んだ声が紡ぎ流れた。
「――金鬼よ」
ザァァァァァ――――
霧が舞い狂い、水滴が煌めき散らされる。
竜の動きは止まっていた――いや、止まらされていた。開いた口、その鼻先を腕一本で止めている鬼一匹。
金色の角を持ち、漆黒の兜のない大鎧を纏った鬼――金鬼は残ったもう片方の腕を振り上げると、竜を殴り飛ばす。
「グァァアアアアアッッ――――!!」
首が揺れ、けれど、すぐに竜は今一度口を大きく開き天へと咆吼した。
「ガァァアァアアッッ!! 奪わせぬ、奪わせぬぞっ!!」
鬼、金鬼に向かい牙を向け――が、鬼に届く前に、竜の身体が止まる。