二
「咲久夜様……わたしは捨て子です。慈悲あって拾われ育ててもらいましたが、皆生きることに精一杯で学ぶ機会など、いえ、学ぶという考えすらありませんでした。わたしは世界の何も知りません」
「そうか……わかった。学ぶ機会はまたゆるりと与えよう。今は知らなければならないことを伝えておかねばな」
「でしたら、咲久夜様。咲久夜様や照灯様のことをわたしに教えてください」
「ははっ、そうだった。確かに、我らのことを何も教えていなかった」
今更なことに咲久夜は笑った。
「自分で自身のことを語るのは苦手なのだが、わし達のことを知りたいという可愛い願いには応えてやらねばならぬな……とはいっても、わしは陰陽寮当主の妹、そして、照灯はその仲間。それだけのことなのだが」
「もう、咲久夜様は……キキが知りたいというのなら、教えましょう。本当なら、何も知らぬ澄んだままの子で居てほしかったのですが……それは、私の我が儘ですね」
照灯は少しだけ視線を落とし、だけれど、すぐに微笑んでキキの頭を撫でた。
「陰陽寮というのは鬼討伐の中心……それはキキも分かっていると思います」
「はい」
「その陰陽寮を統括している当主、陰陽頭が咲久夜様の姉君となる花知流様です。位階は従五位下……と言われてもよく分かりませんよね。武家の主である鎮守府将軍と同等と考えれば……」
「照灯よ、何も知らぬ子にそのほうが分かりにくかろう。まあ、位階なぞ、わしもよく分かっていないが」
咲久夜はからからと笑い、続けた。
「まあ、姉上は鬼討伐の当主、それだけを分かっておればよい。わしも陰陽助と陰陽允を担ってはいるが、昔と今では大分意味が違っていてな。鬼討伐の長の一人と思っていればよい」
「はい、わかりました」
前世では位階などの勉強はしていなかったためキキも詳しいことは分からなかったが、確実なことは咲久夜は鬼討伐の中心の一人……つまり、戦いを『動かせる』人物の一人だということだった。キキにしてみればそれを知れただけで十分意味がある。
「陰陽寮……咲久夜様は陰陽師なのですね」
「そうだが……そうか、陰陽師から教えなければならぬか」
今更ながら、キキの生まれに気付かされる。生まれた時から陰陽師だった咲久夜にとっては当たり前でも、キキにとって陰陽師は当たり前の存在ではない。