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戦狂のキキ  作者: shio
第八章
178/461

十二


 大極殿を抜け――そして、思わず苦笑してしまう。


(空気が旨いと感じるとは)


 知らず烏の瘴気が満ちていたか、けれど、瘴気は鬼が、怪士あやかしが出すもの。その鬼である自分が、瘴気に当てられるとは……

 隣の阿曽もふっと息を付いていることに気付き、また笑い。


「さて、酒呑が居るのは、豊楽とよのあかりか」

「とよのあかり?」

豊楽院ぶらくいんだ。豊楽とよのあかりは宴会という意らしい。酒飲みの酒呑には相応しかろう――」


 そこまで話し、カナは応天門おうてんもんへと視線を向けた。

 こちらに歩いてくる者――深支子こきくちなし褐衣かちえ熊丸紋くままるもん摺文様すりもんよう、白き括袴くくりはかまを纏い、面布かおぎぬを着けた男一人。

 烏の所に居た大男二人に比べれば小柄だが、六尺はある背と遠目からでも感じ取れる精悍な気。その深支子の褐衣姿の男――いや、正確に言えば男の鬼人は、カナに気付くと「おう」と手を振り近づいた。


「金童子ではないか……おっと、カナ殿だったな。随分と久しい」


 金童子ではなく、カナと呼ぶ。それだけで二人の関係も分かり、すっと身体の緊張を解く阿曽に苦笑しつつ。

 カナもまた、幾分表情を和らげ口を開いた。


「烏の媼殿の命で遠出をしていた。星熊ほしくま殿もどこかへ?」

「ああ、筑前ちくぜんのほうへ少しな」

「ほう、筑前に」


 出雲よりも更に先の筑前国ちくぜんのくにとは……烏の命だろうが、一体何を考えているのか。


「はっはっ、それよりも、『烏の媼殿』とは相変わらずだな」

「本人の前では礼を尽くしている、それで良かろう」

「はっはっはっ、そういうところが立烏帽子殿に気に入られているのだろう。っと、すまない、客人が居たな」


 星熊と呼ばれた男が顔を向けると、阿曽はすっと頭を下げ、


「阿曽と申します、星熊様」


 そう名乗り、にこと微笑んだ。


「ほう、阿曽殿と言われるか、これはこれは。俺は星熊童子という」


 仰々しく背を正し頭を下げると、星熊童子はばっと両腕を開いた。


「いや、少ない鬼人ではあるが、こんな美人に出会えるとは。よく来られた、阿曽殿」

「いえ、そんな……」

「そう照れる姿も愛らしい。おお、そうだ、もうすぐ夕餉となる。共にどうだろうか」

「はぁ、お主も相変わらずだな、星熊殿」

「おお、カナ殿も仲間外れはせぬ。いくしま童子も呼んで……」

「報告があるのでここに来たのではないか。それに、残念だが、阿曽はもう人の妻だ」


 星熊童子の鬼にしては珍しいこの性格は嫌いではなかったが、護るように阿曽の前へと手を上げ、カナは静かに続けた。


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