六
(――本来なら烏媼のところなどに共に連れて行きたくはなかったが)
とはいえ、仕様がない。あのまま置いていけば茨木童子から吉備のことを聞かれ、その上で何を言われるか分からない。
(今回の武具の事、酒呑が言い始めたらしいからな)
全く、と思う。面倒事が多い、だから、京には居たくはないのだ。
「……湯浴みの後に夕餉でも食べながらイクマに一舞いして貰おうと思っていたのだがな」
「イクマ殿は舞をされるのですか」
金童子という名、四天王、烏の媼、茨木、酒呑……聞きたいことは数あったが。
茨木との会話でカナがどういう感情を持っているかも分かっていた為、阿曽はにこと微笑み、イクマの事を問いかけた。
「ああ、あやつは鬼のくせに神楽を舞う。とはいえ、陰陽師とは違い鬼神を降ろせるわけではないが」
「そうなのですね」
驚きつつ、イクマの所作が綺麗なことにも納得する。頭を下げる動作一つでも流れるように優雅で、加えて、愛らしい姿と安らぎを与える声。イクマであればどれほどの神楽を舞えるか。
「イクマ殿の舞、私も見てみたいです」
「面倒事が終われば見られよう。しばらくの辛抱だな」
無事に終わればだが……というのは心の内だけでカナは呟き。
「さて、先程行くと言ってしまった手前、顔を見せるくらいはせねばなるまいか」
「では、主様……烏の媼様のところへ?」
「ああ、イクマは写経をしていると言っていたな。紫宸殿には居ないようだったが、ならば、大極殿か」
「大極殿、ですか」
阿曽はくすりと笑った。
「京の方達は……なんというか仰々しい名を付けるのが好きなのですね」
「はは、まったくだな。それぞれに意味があるらしいが、大極というのは大陸では万物の根源、天の中心を意味するらしい。烏媼が好きそうな場所だ」