一
「さあ、できました。どうですか、咲久夜様」
「おお、よく似合っている」
咲久夜と出会った次の日。湯で洗われ髪も梳かれ、楽しそうに着付けをする照灯に従うまま、キキは真新しい白と紅の装束を纏っていた。巫女装束に近い術服、咲久夜や照灯と同じ装束である。
「…………」
「どうした、何か不満か?」
「暗い色のほうがいいと思います」
「ふむ? 白も似合っているが」
「闇に紛れません」
「……ふっ、はは、そうか。では、戦装束はそうしよう」
「有り難うございます」
たった一日だが、キキの生活は一変した。捨て子として薪を割り田を耕し、陰陽寮に来てからは大人の男達に囲まれ、邪魔者のように扱われながら訓練と雑用をこなしていた日々とは全く違う日常。
照灯などは妹ができたかのようにキキに接し、その世話をしていた。それは時折、キキを困らせるほどでもあったが、ともあれ、キキにとっては初めての安息を感じる時間だった。
「戦装束など……キキは私が護りますからいいのですよ」
「照灯様……」
「『様』など付けなくとも良いと、いつも言っているではありませんか」
キキを抱きしめ、その頬に触れ、照灯は少し怒ったように口を開く。
「もう私達は家族も同然。家族に『様』は付けないでしょう?」
「ですが……」
「ほら、また。『ですが』は駄目です」
「ははっ、その辺にしておけ、照灯」
困るキキに笑い、咲久夜は立ち上がった。
「さあ、そろそろ行かんとな。那都をまた困らせても悪いだろう」
――――――――――
「しかし、咲久夜様。キキはまだ傷も癒えておりませんし、あの場に連れていかなくとも……」
「正式に我らの隊に入ったことを伝えておかねば、幼子と言われ何をされるかわからん」
「それは、分かります……ですが、あのような場にキキを居させたくはありません」
「気持ちは分かる。が、我らの隊に入れば避けては通れぬ道だ。それに……」
聴こえているはずだ。それでも、キキは問いかけたりしない。いや、聴いていないようにしている。どこで覚えたものなのか、この幼子はこの歳にして大人の接し方を知っている。
「聡い子だ。知っておいたほうがいいだろう」
本当に妙なる子……そう思うからこそ、咲久夜は続けた。
「キキ。先程、照灯が言ったな、我らは家族だと。家族に遠慮は無用だ、お前は何を知りたい?」
その時になって、初めてキキは咲久夜へと視線を向けた。