二
「何故、朱雀大路がこんな広さになったと思う。ただ大陸の使者を迎える為だけだ、その為だけにこの路が造られた。貴族でない人間は路を通ることさえ出来ぬ。ふふ、骸を捨てたのは民の細やかな抵抗かもしれぬな」
「……今は綺麗なのですね」
「我らが片付けたわけではないがな。だが、おそらくは鬼が生まれる必要がなくなったからだろう」
「鬼が生まれる?」
「骸が溢れた結果どうなったと思う。鬼だ、鬼が生まれた。我らとは違う畜生の鬼だ」
「畜生の鬼……」
「そうだ、我らが攻めずとも京には鬼が生まれ住んでいた。京の人間共は骸から服を奪い、髪を毟り、自らの生きる糧とした。人は喰らっても、真の鬼はそんなことはせぬだろう。それが京の人間共、畜生の鬼だ。そして、我ら真の鬼が来たことで居なくなった」
――成程、吉備とは違う。
阿曽は内で悲しく呟いた。京に住む人間も……そして、カナも。
「陰陽師共もそうだ。四角四堺祭を為し、結界を幾重にも張って外からの鬼を防いでも、内から生まれた鬼はどうすることも出来ぬ。陰陽師は鬼を生み出すのを止められず、鬼を防ぐ事も敵わず、祓うことも出来ず、そしてどうだ、今や京は鬼の住処だ。面白かろう」
「……そうですね」
先程はつまらぬと言い、今度は面白いと笑う。短い付き合いなれど、カナがどのような性格かは知っていた。だからこそ、阿曽は少し戸惑いつつ曖昧に笑った。
吉備で共に在った時、初めにカナに感じたのは恐れだった。けれど、話す内にその恐れはすぐになくなり、そして、感じたのはどこか飄々とした、それでいて優しさを持った性格だということだった。
けれど今は――珍しいとも思う。
カナは苛立っていた。自らで攻め、鬼が京を治めたにも関わらず、それをどこか嫌悪するように。
「さあ、参ろうか。鬼の宮城に」
「はい、カナ様」
笑うカナの瞳に一瞬だけ鋭き光が灯り、それが一体どんな意かは分からず、今はただ頷き阿曽は後ろに従った。