表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦狂のキキ  作者: shio
第六章
144/461

二十六


「……ああ……ああ……温羅様…………温羅様……」


 阿曽は涙を流しながらよろめき、ただ温羅を見つめ……


「温羅様……」


 けれど、呼びかけても応えては貰えぬ現実を知り……瞳を閉じ俯くと、懐から合口あいくちいだした。

 スラリと抜き、そして、


 ザシュ――


 合口の刃に血はつたい……


「……我は温羅のように硬くはない」

「カナ……様」

「戦うつもりならば、傷もつかなかっただろうがな。まあ、酔いもある」


 カナは合口の刃を握ったまま首に刺そうとしていた阿曽から奪いとり、床へと捨てた。

 カランと軽い音をたて落ちる合口と、自身の手の血を見つめ、カナは笑う。


(立ち入る気はなかったが……)


 何とも不思議な縁……そう思い、カナは倒れている幼子を見つめた。


「……阿曽よ、お前はあの幼子を恨むか」


 何故、そんなことを問うたのか、心乱れた阿曽には分かるはずもなかったが。


「いいえ……いいえ……小さな声でしたが確かに聞こえたのです、あの子の『ごめんなさい』という悲しき声を……」


 阿曽は首を振り、涙を流したまま続けた。


「温羅様も望む戦いではなかったはず……それでも、最後は『良き人生』だと……幼い子を恨むことなど何故できましょう……」

「……そうか」


 カナは頷き、微笑んだ。お前は本当に妙なる子だ……


「キキ」


 そう呼びかけ、カナはゆっくりと歩み近づいた。

 そっと抱きかかえる。意識は失い血塗れだというのに、小刀だけは握ったまま――痛みはあるだろうに、どこか眠ったように安らかで。

 このまま抱きしめ連れて行きたいが、それではキキは死んでしまうだろう。


「阿曽よ、我と共に来い。お前の命、我が預かろう」


 そう伝え、カナは疾く歩き出した。


 おおおぉぉおおおおおお――――


 鬨の声は今だ止まず、ならば陰陽師もまだ城の内に居るだろう。

 少し口惜しいが、これもまたキキの為と思い。

 カナはキキを抱いたまま、その場を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ