十一
ヒュと息を吸い足で円を描き、鬼兵の後ろに回る。顎を貫かれた鬼がゆっくりと倒れ、だが、その時には二体の鬼が迫っていた。
(――十人)
鬼の骸は十……キキは足の甲で落ちた槍を浮かせ手で握る。
「ガァアアアアァアアアアッッ!!!」
ガキッ――
鬼兵の振り下ろした太刀は床板を斬り、そして、動きが止まった。
「――――」
それは静かに、微塵のぶれもなく――キキの槍は鬼兵の眉間を捉えていた。
「ァ……ガ…………」
鬼兵は動くことが出来ず、ただ震え、息も止まり。
キキの瞳はどこまでも澄み、これだけの鬼を殺しているにも関わらず殺気もなく。だが、だからこそ、恐ろしくもあり。
――嵐の音だけが響く中、全ての鬼兵の足が止まっていた。
(――七人)
残り七人……そろそろだろう。
「……ォ、王丹様……王丹様ヲ呼ベッ……呼ブノダッ!!」
叫びに鬼兵の二体が廊下へと駆け出す。
鬼の主――温羅を探す必要は無かった。鬼兵に知があり感情があるのであれば呼びに行くだろうことは予想していた。
キキは槍を戻し、にこと微笑む。
今、ここに居るのは五体。王丹というのが鬼人だとして、その者が来る前に倒しておかなければならない。
恐れ、怯えている鬼兵を倒すのはあまりやりたくないが……逃がしてしまえば、人を襲うだろう。
だからこそ、
――カラン
槍を捨て、キキはゆっくり歩いて行き、鬼兵の腕に刺さったままの小太刀を抜いた。
「――――」
スッと瞼を伏せ、そして、
ダンッ!
「ッ!」
板を踏み込み、びくりと身体を震わせた鬼兵へと瞳を向ける。
知があるのならば、感情があるのならば――心があるのならば。
「参れ」
静かにそう一言伝えた。
退いて死ぬか、向かって死ぬか――鬼も人と一緒ならば、分かるだろう。
「……ォ……ォォオ……オオオォォォオオオオッッ!!!」
キキの戦気に鬼兵が一斉に雄叫びを上げた。
にことキキは微笑み――そして。
小太刀を逆手に持ち、髪を靡かせ、装束を翻しながら、疾く駆け出した。




