九
「鬼気持ち……いや、キキと呼ばれているのだったな。鬼は何体いた?」
「十三です」
「そうか、そして、その全てを殺したと」
周りの兵士に視線を送る。否定しないということは、確かなことなのだろう。鬼の数を数えることは、戦果や褒賞にも関わってくる。数え間違えることはないだろう。
「助かったのはお前だな、隊長。一隊程度では勝てなかったどころか、全滅していただろうよ」
嫌悪に言葉が冷たくなる。この男……キキを罰して置きながら、何食わぬ顔で戦果を独り占めするつもりだったか。十三といえば、かなりの手柄となる。
「しかし、鬼も恐れぬお前が、どうして大人にされるままでいる? 敬っているわけではないだろう」
歯に衣着せぬ物言いに、キキは思わず笑いそうになって……隊長である居倉橋の苦々しい顔を見て止めた。
「……鬼の法であれば、それでいいのかもしれませんが、わたしは人間です」
「ははっ、そうか」
少女は笑った。この幼子と話すたびに心が晴れやかになる。不思議な子と思うと同時に面白さが増す。
「お前達では相手にならぬ。宝の持ち腐れだろうよ」
「な、なにを……」
「聞こえなかったか? お前達ではこやつは扱えぬよ」
少女は「……立てるか?」と小さく伝え、キキの手を取り立たせた。
「わしに付いてこい。わしがこやつを貰う」
「いや、しかし……っ」
「いいではないか、罰しようとしていたのだろう? 気に入らないのであれば、わしが貰おう」
それで話は終わりというように、少女はキキの手を取ったまま早々に歩き出した。
「こやつが倒した鬼は、手切れ金としてお前の隊にくれてやる。それでよかろう?」
自分の考えが見透かされ、怯え縮こまる居倉橋に顔を向けることもなく、少女はキキと共にその場を歩き去った。
「大丈夫か?」
「……痛みはありますが、動けぬほどではありません」
「強い子だ。だが、まずは手当だな。仲間に良い薬師がいる。付いてこい」
これも神の加護かな……自分で断ったくせにそうも思い、そして、この出会いに感謝し。
キキは姫と呼ばれる少女に手を取られたまま後を付いていった。