二十六
「……温羅様は、城に居られたのですか」
「そうだと思いますが……どうかされましたか」
「鬼兵が居り、鬼人が居ることも分かりました。だからこそ、不思議にも思うのです。吉備を乗っ取り、かと思えば、今度は閉じ籠もり。そして、今になってこちらを攻めて来た」
「確かに、妙ですが……」
「しかも、鬼が集まっているにも関わらず城も壊れていない。街もそれほど荒れていない。鬼が近くの村なども襲ってはいない。鬼が多くなれば……言いたくはありませんが、人も必要になるはず」
「…………」
「鬼ノ城の鬼人は、人を求めていないのではないでしょうか。そう考えるなら、城の中に居た人や、逃げられなかった人々ももしかしたら生きているかも知れません」
「ぇ……」
「救えなかった命より、救える命がある。鬼を倒す為に戦うのでは無く、人を救う為に戦う。その方が良いではありませんか」
狭依は心の内であっと声を上げた。この小さな少女は、自分が悲しい顔をしているのを知り、励まそうとしているのだ。
鬼神のように強く、その姿を怖くも思っていたのに……改めて恐れの心なく真っ直ぐ見つめ、狭依は初めてキキはこんなに小さな女の子だと気付く。
それもそのはず、キキは七つだと聞いていた。自分のほぼ半分の歳なのだ。
「キキ殿……」
「……『殿』などつけなくても大丈夫です」
「ですが」
「狭依様がよろしければ、そのままでお話ください」
「私も『様』と呼ばないでください」
「わたしは『様』とつけるのがそのままなのです」
頑なに断るキキに、子供っぽさを感じ狭依はくすりと微笑んだ。
「では、キキ……ちゃん」
「ちゃん……」
「ぁ、やっぱり嫌でしたか」
「いえ……何だか懐かしい感じがしました」
「懐かしい……ふふ、本当にキキちゃんは不思議な女の子です」
『ちゃん』と呼ばれておかしくない歳だというのに、懐かしいと話すキキに狭依はまた微笑んだ。
「…………」
くすくす笑う狭依に、キキも微笑んだ。先程までしていた緊張も解け、口調も表情も柔らかく、そして……歳下の自分が言うのも変だが、子供らしくなっている。