二十二
「――陣を捨て、森に身を潜める。あちらに退いたと思わせる為に」
次の日の朝、水光は武家の将達へとそう伝え、話を終わらせた。
作戦のことはすでに伝えている。後は、武家の協力次第だった。今までのように陰陽師と武家で別れて戦えば、戦には勝てない。
「策の事は分かった。術を使い門をこじ開けるなど、成程、陰陽師らしい。常人では思いつくことも、真似することも出来ぬ」
「…………」
「しかも、将を討ち取るのは童女一人、と。我らには出来ぬことだ。武士など必要ないのではないか、允殿。今は陰陽頭の妹君も居られる」
水光は黙った。武家と顔を合わせる度に聞かされる嫌み……キキが鬼を倒した事で、今日は益々酷くなっている。
慣れればいいが、幾度聞こうが慣れることはない。いや、そのほうが良いのだろう。嫌みを慣れてしまえば、諦めてしまえば、そこでもう武家と共に戦えなくなる。それでは戦には勝てない。
とはいえ、
(こちらが諦めなかったとしても、それで武家の連中が心変わりしてくれるわけではないが……)
「腑抜け」と叱責しようと何度考えただろう。けれど、一度もそれを口にすることは無かった。喧嘩したところで何にもなりはしない。
(……本当に顔に出るな)
黙る水光の横顔を見つめ、咲久夜は内で呟いた。自分も武家との関係には苦労しているが、須佐のほうがまだ与し易い。
性格もあるだろう、元々口数は少なく大声で言い合うことなどない。水光の器を疑うことはないが、将としての経験はまだ浅かった。とはいっても、京が落とされてから若い陰陽師や武士が長とならざるを得なくなっている。経験が浅いというなら、水光だけでなく全員だろう。
(まあ、陰陽師が兵を率いることなどなかったからな)
だが、今はそんなことを言ってはいられない。戦に、鬼に勝つために。
口を出すまいと思っていたが……咲久夜はふっと息を付くと、武士の一人に視線を向けた。