八
「何事かと思って来てみれば、幼子に何をしている。周りの者も何故止めぬ。いつからここは畜生の集まりとなった」
「ひ、姫……いえ、これは、罰を与えて……」
「罰だと? そうだとしても、やりすぎだろう。今すぐ止めよ」
姫と呼ばれた少女はキキに近づき膝をついた。キキの紺の着物に黒い染みが浮かび広がっていく。
あのまま続けていればどうなっていたか……少女は目を鋭くする。
「…………」
けれど……キキが上げた顔、その瞳に。
(……こやつは)
少女は力を抜いた。怒りも濁りもない静かな瞳。
(怒りを持つのはお前のほうだろう。これでは逆ではないか)
内で苦笑し……どこかで助けられたとも感じながら少女は立ち上がった。
「それで、どういうことだ。こんな幼子が何故お前達のような兵士と一緒にいて罰を受けている」
「そいつは……いえ、その者は幼いながらも鬼を殺し、それを認められ我らの隊に入った者です」
「ほう、そうか……成程、お前が噂の『鬼気持ち』であったか。しかし、聞いてはいたが随分と幼いな」
少女はもう一度キキへと視線を向けた。『鬼気持ち』と聞いてどんな子供だろうと思っていたが、想像していた姿とは大分違う。鬼を殺す鬼だというが、とても鬼には見えない。
「して、罰というのはなんだ」
「は……命令に背いたので罰していました」
「どういう命令だ?」
「それは……」
居倉橋は言い淀んだ。全てを話せば、咎められるのは自分かもしれない。
「どうした? 話せ」
「は……我らはその者を守ろうと思い後方に居ろと命じたのですが、一人で動き……」
「一人で動き……どうした?」
「……村に居た鬼を殺しました」
「それのどこが罪だ」
「命令違反は命令違反です」
「ふむ、ははっ、成程、そうか」
おおよそのことを理解し少女は笑った。成程、くだらない。この男達は自らの小ささを棚に上げ、我らはこの幼子よりも上だということを示す為だけに罰といって傷つけようとした。
そのことを理解し、また怒りが湧きそうになる……けれど、ここでこの男達を鬼の餌に変えることは簡単だが、幼子に免じて流すことにしよう。この幼子は怒りも恨みも持ってはいない。