七
キキが一人拠点に帰って来たのは、次の日の朝だった。
だが、心配される声もなく、休むことも許されずすぐに居倉橋に呼び出された。
「……どうして呼ばれたか、分かっておろうな?」
「……はい」
場所は訓練場の隅、キキは地に正座させられ、その前に居倉橋と十名ほどの兵士が立っている。
「お前は命令に背き、一人で行動した。許されぬ行為だ」
「はい」
「なにか言い逃れはあるか?」
「ありません」
「よし、では罰を与えねばならんが、俺にも慈悲がある。幼い子供をいたぶるようなことはしたくない」
「…………」
「だが、兵士達の目もある。上に立つ者として、命令違反は罰しなければならん」
――キキは冷たく隊長を見つめた。兵士をはべらせ、己を守るために「兵士の手前」とうそぶく。
「百叩きとはいわんが、十叩きくらいにしてやろう。棒を持ってこい」
一瞬、
(このままでいいのか?)
キキの頭にそうよぎった。このまま大人しく罰を受ければ、今後、奴隷のような扱いを受けるのではないか?
目の前の全員を叩き伏せることは容易い……だが、そうすればここにはいられなくなる。住む場所がなくなるというのは大した問題じゃない。ただ、自分一人で鬼を全滅させることはできない。鬼を滅ぼすには組織が必要だった。
であれば……我慢するしかないか。
「まず、一つっ」
――バチッ
「二つっ」
――バチッ
背に当たる堅い棒に、キキは何も言わず歯を食いしばった。いくら強かろうと身体は幼い子供。大人が力一杯棒で殴り続ければ、肉は裂け、骨は折れるだろう。
「三つっ!」
――バチッ
事情を知らない者達が哀れにこちらを見てくるが、誰も止めようとはしない。
「四つっ!」
――ビチッ!
キキの着物に血が滲んだ――その時だった。
「もう止めよ」
男ばかりの訓練場に似つかわしくない、澄んだ凜とした声が響いた。