一
吾輩は鬼である。
鬼を斬る鬼である。
名前はまだない。
――――――――――
「なんだ、あの子供……いや、子供というより幼児じゃねえか。なんだって、こんなところにいる。給仕か?」
「ああ、あいつか……あいつは化け物だよ」
「化け物? あの幼児が?」
「なんでも十数の鬼を相手にして返り血も浴びることなく殺したって話だ」
「なんだって、どういう殺し方したらそうなるんだ」
「だから、化け物だっていってんだよ」
「ありゃあ、殺人鬼だよ……いや、鬼殺しだから殺鬼鬼か」
「なんだ、そりゃ」
「鬼を殺す鬼か。いいじゃねえか、鬼気迫るっていうしな。可愛い顔して、あいつは鬼気持ちだ」
――それから、少女は「鬼気持ち」と呼ばれ、いつしか名前は鬼気となり、そして、鬼鬼になった。
――――――――――
少女――キキは捨て子だった。鬼がその勢力を大きくすればするほど、人々は土地を追われ飢え苦しんだ。その結果、一番早く捨てられるのは老人、そして、赤子だった。
だが、捨てる方も僅かな望みを抱くのだろう。それとも僅かな贖罪のつもりか。赤子を捨てる際、村の近くに、人目のつく場所に捨てた。
そうして、赤子――キキは拾われ、誰が親代わりというわけでもなく村の一員として育てられていく。とはいっても、それはキキだけがそうだというわけではなかった。少しでも余裕のある村は、共同で捨て子を拾い育てていた。
名前が無いのもその為だ。もう少し大きくなれば、名を付けられたかもしれない。または、自分で名乗ることもできたろう。だが、キキは名乗ることはしなかった。
それは、キキが七つの時。村が鬼に襲われた。逃げ惑う村人達……その中で、幼い少女は飛び出し、そして、鬼を皆殺しにした。
「――――」
――ポタポタ
血の付いた鉈を手にし、キキは首を斬った鬼を見下ろした。何の感情も無く、無表情に。
何人かが鬼に喰われた。最初からキキが戦っていれば誰も死ななかったかもしれない。だが、幼い少女が戦えるなど分かるはずもなく……戦えることを分かっていたのは少女だけだった。
分かってて当然だ。自分はその為に生まれたのだから。
前世の記憶があるというのは、赤子の頃から物心がついているというのは幸福なのか不幸なのか分からない。
奇異と恐れの目で見られる中、キキは笑った。その笑顔が、更に少女の異常さを際立たせる。
――いや、幸福なのだろう。恐れの目で見られたとしても、どんな感情を持たれたとしても、理解はできる。理解ができるからこそ笑った。恐れられて当然だと。
例え、捨てた親の顔を覚えていたとしても不幸だとは思わなかった。こんな世界に生まれたことも。
望んでこの世界に生まれたのだ。
戦う為に、その為に生まれた。