第1章 最終話 禁断の過去への扉
この作品は、執筆中の映画の脚本を小説にしたものです。
尚、少々、過激な描写がありますので、ご注意ください。
ご感想等を頂ければ幸いです。
月は、死者達が住む星。
ケイと私を創造した人達はあの月から抱き合っている私達を見下ろしいるのだろうか。
「ケイ?」
「何?」
「何でもない」
呪うなら私だけを呪え。決してケイには手出しはさせない。
そう心に念じながら私は、弱々しく青く輝いた月を見上げてケイを抱き締め続けた。
「暖かい?」
「うん もっと強く抱き締めて」
眩しくて見えなかった封印された記憶は、私達の前に少しずつその姿を現そうとしていた。
その夜もアイが弾くピアノの甘美な音が男達を破滅へと導く魔女達の呪文とともに薄暗い性のラビリンスで響いていた。
何時ものように私は、アイの背後に立って黒と白の鍵盤の上を滑る彼女の指先を見つめていた。
その流れる旋律の中でアイがささやいた。
「何時か こんな日が来るとは思ってたけど 予想してたより ちょっと早かったわ」
「アイさんも 見えるんですか? あの景色」
その時、ピアノの旋律が変わった。
「この曲・・・」
それは、あの幻想の中で白いドレスの女の人が弾いていた曲。
メンデルスゾーン 真夏の夜の夢 序曲。
アイの指先は、この真夏の曲を極寒の湖に張った氷の上で音を立てていた。
「あの白いドレスの女の人 いったい誰なんですか?」
アイの指先は、何かに取りつかれたように激しく動きだした。
えっ! 涙?
確かに、その時、私は、白い鍵盤の上に一粒の涙が零れ落ちたのを見た。
魔女達の呪文と魔法にかかった哀れな男の歓喜の声の中で、この真夏の歌は終わることがなく流れ続けていた。
銀座の夜の甘美な残り香が漂ったタクシーの車窓から私とアイは飛ぶように流れて行くまばらに光る民家の灯りを眺めていた。
あの光の中には家族の幸せがある。
アイもそう思ってるのだろうか。
そんなことを考えながら私は、ツンとした高い鼻が目立ったアイの横顔にピントを合わせいた。
アイとケイ、そしてエル。
半分同じ遺伝子から出来た半分姉妹のこの3人は禁断の過去への扉を開けようとしていた。




