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地下帝国 ~導かれし者たちの~  作者: 井吹 雫
9/9

~散策~

 気が付いたら約一年ぶりの更新!汗

 お待たせしてしまい、大変申し訳ございませんでした。

――二XXX年六月一〇日 午前一〇時三分――

~一階・廊下~






「――おい。……大丈夫か?」


 静か過ぎて進んでいく足音でさえも響き渡る、黄宙高校の校舎内。

 一階の捜索を担当する事になった竜也と桜、そして唯。

 三人は身体を硬直させながらも、一歩づつ廊下を進んでいた。


「――っ、……」


 冷たく突き刺さる廊下の空気が桜たちの身体へと容赦なく襲ってくる為、息を吸うのもままならない。

 これ程までに人は呼吸が浅くなるものなのか。

 実際問題、廊下が異様に冷たくて寒い、という訳では決してない。

 しかし、あまりの緊張と物音ひとつしない周囲の様子。

 それはまるで、すぐ目の前の廊下の角先や、閉められている教室の扉の奥先、そこで出会いたくはない奴らが息を潜めているのではないかと錯覚したくなってしまいそうな程。


「……聞いてんのか?」


 身体を寄せながら竜也を先頭に桜、唯と続いているのだから、目の前の竜也の声が桜に届いていない筈が無い。

 それでも見えない恐怖と身体の硬直で、桜は頭で考えるという行為すらもまともに出来ていなかった。


「おい、桜?」


 再び竜也が声を発したことで、ようやく自身が呼ばれているという事実に気が付いた桜。


「うっん、私っは、大丈夫っ」


 もちろん息もまともに据えていない状態で、声を出せる訳がない。

 それでもどうにか桜は返事を絞り出して見せる。


「唯っちゃんも、……平気っだよ、ね?」

 自身の事でいっぱいいっぱいの桜はなんとか気を持たせようと、ぴったり背中にくっ付いている唯へ心配する言葉を掛けてみた。

 しかし、唯からの返事は聞こえてこない。

 代わりに声こそ聞こえなかったが、背中に張り付いている唯が全力で頷いているのは感じられた。


――正直、こんなにくっつかれたら歩きづらいのはあるけど……――


 そんな考えがふと頭の中をよぎったが、それでも桜自身、誰かに触れていないと精神を保つ事なんて出来る気がしない。

 それ程までに、桜たちがいる廊下はシンっと静まり返っていた。


「……悪い、ちょっと休憩」


 すると、唐突にそう言葉を漏らした竜也が前進するのを止めて立ち止まる。

きっと、桜と唯の様子を肌で感じ取ったのだろう。

 少しばかり肩を慣らすと、そのまま廊下の壁を背にしてズルズルしゃがみ込んでしまった。


――えっ、こんな廊下のど真ん中で……――


 とにかく今の現状しか考えられない桜は、竜也のこの行動を理解する判断能力が消えてしまっている。

 だが、目の前にいる竜也があまりにも自然にしゃがみ込んだので、我に返るとすぐ様同じように真似てしゃがんでみせた。

 するとそれに吊られるようにして、唯も桜にくっついたまましゃがんでいく。

 そんな二人を片目で確認した竜也は、ようやくこれで一息つけるとでもいうかのように、静かに一度息を付いた。


「……とりあえず、俺たちは一階を探せってことだけどよ。でも正直、一階の何処を探せばいいんだ?」


 なんて、桜たちに向けて声を掛けた竜也。

 いや、もしかしたら誰にも向けていない、独り言だったのかもしれない。

 竜也は普段から口が悪く、短気な性格で浸透している。

 しかし実際はとても頭の回転が速く、他人の感情に敏感で優しい人間だということを桜は知っている。


――……なのにどうして、透子にだけはやたらと強く当たるんだろう――


 そんな素朴な疑問が、桜の頭の中を掠めていく。


「っ、先生がっ解読コード……を持っていたらしいから、職員室に行ってみる?」


 頭では別の疑問を浮かべつつ、先ほどの竜也の問い掛けに答えてみた桜。

 緊張で無意識に呼吸は荒くなっていたが、それでもどうにか言葉を紡ぐ事は出来た。

 一方、そんな桜の様子を目視する訳でもなく、竜也は発せられた声だけで状態を判断した様子。


「……そうだな」


 なんて一呼吸を置いてから、竜也はそう返事をした。


「それにしても、何でこんな事になっちまったんだろうな……」


 まるで独り言を言うかのように、ただある一点をぼうっと見つめながら呟いた竜也。

 確かに竜也の言う通りではある。

 目が覚めてから言われるがままここまで進んでしまったが、そもそも桜たちは起きる前の記憶が全くと言っていい程ない。


「……桜先輩も、分からないんですか?」


 それは決して記憶喪失いう訳ではなく、ただただ起き上がる前の記憶が抜け落ちてしまったかのような感覚。

 まるでそこには、最初からそんなもの等存在していなかったかのような……。

だから竜也の漏らした呟きに、桜は反応できないでいた。


――……桜先輩もって事は、唯ちゃんも分からないって事だよね――


 竜也の呟きに加えて唯からの問い掛け。

 背中にぴったりとくっついている唯が、首を傾げて桜の顔を覗こうとしているのも伝わってくる。

 しかしそれでも、桜は言葉を口から出すことが出来ない。

 目覚める前の記憶がない事。

 この黄宙高校の異常事態に、生徒や先生がいない現実。

 どれを取っても、今の桜たちには一つも正解に辿り着ける要素が何もない。

 それでも桜は身を寄せて廊下にしゃがみ、休息を取ったことで少しばかり考えるという行為に余裕が出てきた。

 すると、それを察したかのように竜也が桜の肩をポンと軽く叩いてみせる。


「いけるか?」


 そう問い掛けてきた竜也で、我へと返った桜。


――ああ、そうだ。今は悠長に考えている暇はない、進まなくちゃいけないんだ――


 なんて決意を新たに顔を上げると、視線だけをこちらに向けていた竜也と目が合う。

 小さく、でもゆっくりと桜は頷いた。

 一方そんな桜を見て、竜也は再び進む方向へと視線を向けながら言葉を発する。


「よし、そろそろ行くぞ」


 まるで、桜の事は何でも分かっているかのように行動を起こしていく竜也。


「唯も平気か?」


 そう唯にも声を掛けながら、竜也は静かに立ち上がった。


「……はい、大丈夫です」


 自然な流れで行動を起こしていく竜也の姿勢。

 そんな竜也の声掛けに、唯は静かに声を落とす。

 きっと、本当はまだ落ち着いた訳ではないのだろう。

 背中越しではあるが、唯の身体は若干の震えが残っているのを桜は知っている。

 しかし、それでも唯はまっすぐ竜也を見据えているのを見て、なぜか桜は不思議と心が落ち着いた。


――もしかして竜也は、さっきの状態だと何も出来ないで終わってしまいそうだったから、だからわざわざ、こんな廊下の途中で止まってくれたのかな……――


 先ほどまでの、パニック寸前で返事をするのですらままならない唯とは思えない程、今は静かに竜也を見据える唯。


――私も少しは呼吸が落ち着いてきたし。……うん、大丈夫――


 本来なら竜也自身も桜たち同様、この状況に対応する余裕などない筈。

 それでも桜と唯の事を気に掛けてくれる竜也の優しさ。

 それを受けて、桜の心は少しばかり穏やかな気持ちがあふれ出す。


――やっぱり竜也は優しい、頼りになるな――


 芽生えた素直な感情を受け入れて、軽く深呼吸をした桜。

 再び進み出した竜也の背中を見つめつつ、置いて行かれないようにすぐ後ろを付いていく。

 桜の中では頼りになる、竜也というありがたい存在。

 しかし、そんな竜也の背中を見つめながら、桜はある一人の人物の面影を重ねていた。




 今日の更新分は、作者が別名義で活動している所の配信内で書き上げたものになります。

 そちらも遊びに来て下さった方々、ありがとうございました!

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