~開始~
昨日は仕事の関係で疲れてしまい、更新をお休みさせて頂きありがとうございました。
GW、作者は殆ど仕事じゃーい!泣
「――とりあえず、……どうしようか」
皆が無言で、各々使えそうな武器を手に取っていく異様な教室。
そんな中、同じように武器を手に取っては床に戻してを繰り返している雅也が皆へ……というよりも、透子に向かって問い掛けた。
「……そうだな。解除コードのヒントは、数人の教師達が保管しているとのことだったな」
一方の透子は、雅也の問い掛けに対して、生徒達全員へと伝えるかのように言葉を発する。
「だったら、何グループかに分かれて散策するのが得策だな。分担して、職員室や各教科の準備室等を調べたのち、再び合流すればいいのではないか?」
なんて話している透子は「仮面の男の話し方から察するに、ヒントを元にコードを解読する必要があるらしいからな」と、付け加えた。
「……うん、そうだね」
そうやってすらすら答えていく透子の意見に同意した桜。
桜にとってはただ友人である透子の意見に同意しただけ。
しかし、声を発したことで桜は皆の視線を一気に集めてしまう。
「……。全員で行動するよりも、各階をグループで手分けして探した方が、きっと効率はいいと思うかな」
静かに、そしてゆっくりと。
皆の視線の重圧に思わず怯んでしまった桜であったが、それでも自身の考えは、どうにか言葉へ落とせた様子。
「では、散策したのちの集合場所は……ここで良いか」
そんな桜の心情を知ってか知らずか。
桜と皆の反応を気にせず、どんどん話を進めようとしていく透子。
しかし桜は、自身が発言した言葉の意味を噛みしめるように心の中で解いていく。
――それにもし、皆一緒に行動して、あれに出会してしまったら……――
皆に伝えた事を、頭の中で想定をしてみた桜。
「きっと、大人数であの……やつらに遭遇したら、パニックになって、逃げる事も出来ずに皆やられてしまうと思うの。だから、そうならない為にも、少人数で行動した方が良いと思う」
なんて再び話した桜の頭の中で突如現れたとある残像。
皆が廊下で泣き叫び、食われて襲われ、乱射している惨劇。
きっとそれは、桜が皆へ話した内容が脳内で具現化されたからではない。
言葉を紡ぎながら、桜は頭の片隅で警告音が鳴っているような錯覚を覚えた。
「……」
「……」
「……」
「……」
一方、桜の言葉を聞いていた生徒達も無言のまま。
誰も言葉を発しない空間が、一層空気を重くしてしまう。
「――……っ、あの……!」
そんな空気を打破するかのように、突如声を上げた一人の女生徒。
桜の一学年下で、部活の後輩でもある朝倉 唯が、おずおずと手を挙げながら桜を見た。
「……どうしたの? 何か、気になることでもあった?」
今にも泣き出しそうな顔をしながら、震えて手を挙げた唯に向かって、桜は優しく問い掛ける。
しかし、余程臆病な性格なのだろう。
桜の問い掛けと皆の視線に怯んだ唯は、慌てたように俯いてしまう。
「――なんだ。疑問に思っている事があるなら、きちんと言っておいた方がいいぞ」
なんて発する透子の言葉に、俯いていた唯が肩を竦ませて反応した。
意を決したように握り締めていた拳を解き、顔を上げた唯。
「――っ、あのっ! どうして探しに行った後の集合場所が、ここなんですか?」
そう話し出した唯はまるで機関車のように、一気にまくし立てて喋り倒す。
「仮面の人が言っていた偉い人は多分校長先生の事ですよね? 見つけた解除コードのヒントを持って校長室に集合すれば、解読した後すぐに打ち込んでそのまま地下へ逃げられますよね?」
可愛らしい声とは裏腹に、興奮した状態で話し終えた唯の意見。
それを聞いて周りの生徒達も何人か同意し出した。
――何でだろう。それだときっと、危ない気がする。……前にそれと同じ事をして、失敗をした気が――
唯の意見を聞いて、何故かそんな事を思った桜。
「……それは、駄目だな」
一方の透子も、静かに、しかしはっきりと唯へ伝える。
「もし仮にそこを集合場所として、集まり解読した結果、その解除コードが違っていたらどうする。解読するという事は、そこに長時間居座るということだぞ」
なんて、唯へ詰め寄るように言葉を落としていく透子。
桜はその透子の態度が通常運転であると分かっているが、普段の透子を知らない人から見ると、その言い回しは随分きついと感じてしまう。
「同じ場所に長時間居座れば、それだけやつらが集まりやすくもなる。そんな状態でコードが違って再びその場を離れなくてはいけない状況になってしまったら?」
きっと、透子に悪気はないのだろう。
それでも詰め寄り過ぎな態度で話してしまっている透子の声。
「やつらをおびき寄せてしまうリスクと、地下へと続く扉がある……かもしれない校長室を、やつらに占拠されるリスクを考えたら、唯の意見は得策ではないだろう」
そう締めくくった透子に、反論する者は誰もいない。
確かに、逃げ道があるかもしれない校長室をやつらが占拠してしまったら、元も子もない。
解除コードが違い、再び探しに行かなければならなかった場合や、万が一何かあった場合。
唯一の逃げ道であるかもしれない校長室を、やつらで阻まれる事だけは避けたいと誰もが感じる。
「……だから校長室は、地下へと続く扉を確実に開けられる確証が出来ない限り、我々自身も近付かない方がいいだろう」
なんて付け加えたように話す透子の説明は、まるで一発ではコードを解読する事が出来ないとでも知っているかのような言い分。
しかし、余りにも言葉巧みに話を進めるので、誰も透子に刃向かう者はいなかった。
「そう、だね。透子の言う通りかも。だからやっぱり、再び集まるのはこの教室で良いんじゃないかな』
桜も自身の先程感じた感覚。
それを踏まえてか、同意見である透子の話に便乗する。
「――もちろん! ……唯ちゃんの意見を、否定した訳ではないからね。むしろ発言をしてくれて、ありがとう」
それは、唯が普段の学校生活で己の意見を殆ど言わない事を知っているからか。
唯をなだめるかのように優しく桜が伝えると、目を泳がせながらも唯はゆっくりと頷いた。
「では、後はグループだな。時間もないので、勝手に決めさせてもらうぞ」
そう言ってチラリと時計を確認してから再び話し出した透子に、もう口を開く者はいない。
皆、異常なまでの透子のこの適応力に、怖さを感じながらも少しばかり信頼し、期待をしているのかもしれない。
「今ここにいるのは、三年が三人、一年が五人。そして、二年が四人の一二人だ」
なんて話しながら、透子はグループを素早く作っていく。
「……ではこれで、各階をそれぞれ調べよう。一〇時四五分になったら、再びこの教室にまた集合だな」
そう言う透子の問い掛けに、誰も反対する者はいない。
「……よし。ではもうすぐ時間だ。皆準備はいいか?」
静かながらも凜とした声を受けて、それぞれの顔を確認し合う生徒達。
恐怖に怯える者、怒りに満ちたような顔をしている者。
皆は無表情ながらも、各々が違う感情を浮かべているのだとを直感で感じてしまう。
「……うん、大丈夫」
そんな中で唯一、透子へ向かって返事をした桜。
「――よし、では行こう。……死ぬなよ」
一体それは誰に向けて発した言葉だったのか。
最後に小さく呟いた透子の言葉と同時に、カチッと何かが解除された音が鳴る。
ゆっくりと開かれる教室の扉。
桜達はそれぞれの顔を見る事もなく、己の目的を果たす為に、震える一歩を踏み出した。
――二XXX年六月一〇日 午前一〇時――
黄宙高校一年生……五名
黄宙高校二年生……四名
黄宙高校三年生……三名
計……一二名――