Curiosity killed the cat (前編)
遅筆ですが構想はまだあるので、続きます。
上期試験が終わり、下期のアンケートを出しに、大学に向かう坂道の途中、クロアゲハの向かう先に
「あの人」は佇んでいた。
まるでボクを待ってるかのように。
ボクが来るのが分かっていたかのように。
そして……思い出してしまった。
盆地特有の茹だるような暑さの中「あの人」に再会してしまったから
「蓋が外れてしまうんやね、やっぱりお師匠のお孫さん・・か、手ほどきはウチがやらなあかんのでしょうね。」
外は真夏。
立ち話もなんだし、とのことで場所を移動し、商店街の外れの喫茶店に。
コーヒーくらい奢るわ、との声にホイホイつられてきてみるとあまり流行ってないお店の感じに、チョイス間違えたかなと本気で心配したけど、コーヒーは美味しかったです。コーヒーは。
記憶が戻り、祖母の死に衝撃を受けたけど涙はでなかった。予習済みの課題をもう一度解くような感じで、普通ではない理りの中で亡くなったことは頭のどこかで理解してたみたい。
「それで?…あなたは何者なんです?」
「お師匠はん、キミのお祖母さんの弟子やな、前も言うた通り」
それだけ?
1つ大きなため息ついたら
「それで?キミはどうしたいん?」問われた。
なにが?「どうって?」
「これからや。もう一度記憶に蓋をするもよし、そのまま、記憶を持ったまま生活するもよし。」
「封印しないんですか?」
「2回目は掛かりにくいしなぁ。キミ自身に力があるから余計にねぇ」
「だったら、覚えておきたいです。知りたいです、なんであんなことになったのかを。」
「知りたい…か、好奇心は猫をも殺す、やで」
「え?」
「いや、まぁええよ。命の恩人のお師匠のお孫さんやからなぁ。知る資格もある。才能もある。ちょうどアシスタントも募集してたとこや。キミ、ウチでアルバイトせぇへん?」
「アルバイト?」
正直仕送りだけでは遊興費が成り立たず、バイトしようか悩んでたとこだ。
「どんなことするんです?」
「うん、簡単な事務作業とお手伝いくらいかな」
「力仕事は?」
「あらへん」
「そのぉ……特殊なことは?」
「最初に身を守るすべは覚えてもらう。あとは、まぁ応用やな」
「危なくなったら?」
「守ったるから」
男前だ…
「学業優先?」
「もちろん」
…悪くないです。うん。
「で、ボスのお名前は?なんと呼べば?」
「……決断早いな。一条 澄透や。トールさんでも、ボスでも、なんでもえぇ。好きにし」
これで「とおる」て読むの?胸元から取り出した名刺とともに呼び方まで投げられた。
コメンテーター
一条 澄透
「えっと……この、コメンテーターって言うのは?」
「テレビでみたことない?いわゆる専門家ってやつで、ちょくちょく呼ばれるんよ。」
「専門家って?符術のです?」
「アホ。そんなんで呼ばれるかいな。神道は分かる?」
「なんとなく……」
「それと御陵の研究員でもある」
??
「まぁ分からんでもええよ。符術のほうが本業やから、表書きに必要なんよ。」
名前も表書きなのかな?
「当然名前も本名ちゃうよ。」
…え⁈
「住所は本物やから、そこに書いてある事務所にきてな。」
市内、街中です。電車で4駅程度か。
「良いとこですね。」
「そやねん。立地だけで選んだようなもん。KBCもそばにあるし」
「KBC?」ソ連のスパイは……
「KGBとちゃうで」読まれてた。
「Koto Broad Cast、テレビ局や、コメンテーターとしてよく呼ばれんねん」
まじですか?
「明日からいけるか?」
ちょうど上期の試験が終わった、あ、第2外国語追試やったかも。
「今日、掲示板みて予定確認しますけど、多分大丈夫です。」
「じゃあ明日10:00に事務所まで来てくれる?なんかあった時の連絡先は名刺の裏に書いてある。」
あ、ほんとだ。「じゃあボクの連絡先、ワンギリしますね」
「あぁ、……これな、オッケ。ほなまた明日な。」
伝票をスルッと取ってレジに向かう。
「ありがとうございます。ごちそうさまです。」
頭をあげると、もう片手を振って出て行くとこだった。
さて、いきなりな展開に頭が追いついてないけど、
現状整理しないと。
あ…「バイトか……時給聞き忘れたな」
再び坂道を登り、大学に着く頃には汗だくになってしまい、A講義棟の入り口のベンチでへばってしまった。
追試なかったな。ラッキー。明日から休みか、バイトに注力できるかな。などと考えていると、向こうのほうから手を振り近づいてくる人が。…
「ほーぃ、小宮っち。暑さに負けた顔しとるよ?」
「リノ、単位大丈夫だった?」
「森野さん」から「リノ」へと最近呼び方が昇格した友人に問う。
「ん〜、あかん。なんでロシア語とったんやろ。レポートを来週までに出さなあかんねん。」
たしかになんでロシア語?
「災難やなぁ。ボクはドイツ語だから、お役にたてそうにないや。ごめんね」
「ええよ、小宮っちは明日から遊び放題?実家に帰るとか?」
「ううん。さっきバイトの予定を入れたとこ。休みの間に小遣い稼ぎしないと。」
「そうなんや。じゃあ休みの間もこっちおるんや?」
「うん、リノこそどっか旅行とかいかないの?」
「行かへんやろなぁ。バイトとサークル活動とかな」
「なにしてんだっけ?」
「バイト?サークル?」
「両方」
「バイトは塾講師始めてん。サークルは重低音」
「ケイオンでなく?」
「うん、ヘビメタベーシスト」
なんかすごそう…
秋の学祭でライブするのだそうな。
「忙しそう、空き時間あったら遊んでね」
「もちろん」
さぁ、夏休みの始まりだ
翌日、名刺に書いてある住所をgglマップで確認しながら行くと、四角い建物が見えてきた。事務所兼住宅なのかな?ってかんじで看板とかもない。
ピンポーン
「開いとる。入ってき」うん、昨日の人の声だ。
「こっち、こっち」
なんか道場みたいなとこに通された。意外と広くて、奥に祭壇みたいなのがある。
「まずな、キミ自身のちからを使えるようにせなあかんのや」
ボクの力?
「そや、まずは、これ、捕まえてみ。」
と言って取り出したのは、細長い紙切れのようなもの。表に何か字がかいてある。
「ひら」と飛び出したそれは、ヒラヒラと舞い、
クロアゲハみたい、などと思っているとボクの方に一直線に
「わっ」
とっさに手をだすと…ピキンっと音を立てて凍りつき、
床に落ちて砕けてしまった。
「水…か、それも凍らすほどか。これやから…」
などとブツブツ呟いてるトールさん。
「おけ、ひとまず回路は開いた、キミの属性は水みたいやな。」
属性?
「五行相克とかって聞いたことあるか?」
「えっと、火とか水とか、水は火に克つ、火は木に克つってやつですよね?」
「そうや、よく知ってるな。その五行思想に基づく分類でキミの属性は水になる。ウチは火やから相性は悪い方かもな。あくまで相性であって力の差ではないから気をつけや。強い火は水も蒸発させるからな」
それって火力が最強では…
「あと、水は引き寄せる力も強いから、これからは水辺とかは注意しな。最低限の結界覚えるまでは近づかないことやな」
物騒なことをおっしゃる。
「さて、属性も分かったし、そこの禊場でこれに着替えて待っとき」
へ、これ着物?いや半襦袢と言われるものか?えっと下着はいらないのか…なんか恥ずかしいな。
「えっと、はい、着れたと思います」
「ほな、祭壇に向かって手を合わせて、跪いて、」
「はい」
「来ませし、清浄なる水や、急急如律令」
わ、わわ、わー、突然頭の上から冷たい水が降り注いだ。
「簡単やけどな、禊行というやつや」
「い、い、いまどこから水が??」
振り返ると「清浄水」と書いたお札を持ったトールさんが。
「こっからや」当然のようにお札をヒラヒラさせながら答えてくれた。
「火、以外はな、お札を使う方が楽なんや。火のチカラはほれ、このとおり、……乾け」
ボクの身体を温かい風が包み、髪まで乾いちゃった。
緋袴を履き、トールさんの正面に正座した。まだ心臓バクバクしてるよ。
「ここはウチの結界の中やさかいに、強いチカラも使える。キミもまずは水の結界、水の力を使えるようにせなあかん」
ボクにも使えるの?さっきはとっさになんかでてたけど、あれは?頭が追いついてないよ。
「まあ、おいおいやな。まずはイメージするところから始めな」
「イメージ?」
「そや、イメージが強ければ符はいらんねん。符や器はあくまで媒体やから、イメージを具現化する媒体や。さっきのお札渡しとくから、水場で練習しとき」
「…ボクにもさっきの様なことできるんですか?」
「できる。それも相当強いチカラがある」
そうなんだ…って実感は全然ないけど
「始めに結界の作り方からやな。結界言うてもいろいろある。円陣を描くもの、五芒星、六芒星、九字、いろいろな」
「くじ?」
「九字の呪法は1番ポピュラーなんちゃうかな?ほら、忍者とかで、忍術の際に、臨兵闘者皆陣烈在前、て唱えたりするやろ。あれを九字の呪法て言うねん。」
へー。うん、聞いたことはある。
「九字の簡略化が1番やりやすくてな、横一線だけで結界を引く、短時間やけどな。一線っ!」
「…おぉっ!」目の前に炎の壁が広がった。ど迫力。
「ま、こんなもんや。イメージついたやろ?清浄水と水の一線、まずはこの2つを覚えや。」
で、できるのだろうか?
「まぁ、イメトレからやな。外でやってるとアホみたいやから風呂場とかでやりや。」お札を手渡された。
「今日はこんなとこやな。はい、今月分の給料。」
おお、結構ある。しかも手渡しってありがたみ。
「こんなに、良いんですか?」
「かまへんよ。いろいろ入用になるからな」
「何か必要なものが?」
「そのお札、5万円な」
「は!?」ただじゃないんですか。
「まいど」
この人、気前が良いのかガメツイのかどっち?
「早く自分で呪符くらい書ける様になりや」
くそぉ…精進します。
「あ、リノ?バイト代入ったから晩御飯でもいかない?」
トール師匠の家?事務所?を後にして、懐が温まったボクはリノと晩御飯に行くことにした。
「行く行く、行くで。おごりやんな。ありがとう。」
電話口で一気にまくしたてられて苦笑い。
「うん、今回はおごるよ。どこ行こう?」
「それやったら、肉やな。焼肉。駅の北側にある店わかる?」
「わかる。見たことはあるよ。」
「そこ行こう。遅くまで開いてるし。塾講終わったらすぐ行くわ。」
「了解、塾講これから?頑張ってね」
さて、待ち合わせまで、時間あるし、本屋でも行くか。
本屋で神道、符術関係の本を漁ってみる。結構あるね。一応日本は国家神道てなってるから、ポピュラーではあるのかな。陰陽術とかマンガとかにもなってるよね。などと時間潰してたら、結構いい時間になってた。
外は暗くなってた。明るいうちは気がつかなかったけど、日が落ちるとゾクッとする時がある。感覚がするどくなってるのかな…少し嫌な感じがする。トール師匠はこの感覚をいつも感じてるのか。
地下鉄に乗るとゾクッとする感じは収まってウトウト。あれ、4駅しかないから、寝たらダメなのに……
声が…
「水の巫女か、連れて帰るか?」
巫女?だれが?
「いや、式神がついてる、無理だ」
しき…?
起きなくちゃ…体が動かな…
キーッ…電車のブレーキ音で目が覚めた。
ん…寝てた?1駅しか経ってない、変な夢みた…
「え?」
さっきの給料袋がカバンの中でパタパタしてた。
ジーっと見てたら、びくってして収まった。えと、見てはいけないの見た感じ?うん、とりあえず無視しとこう。
「待った?」
「ううん、今来たとこ」
恋人の待ち合わせみたいな会話して、焼肉屋に入る。
「いや〜、人の金で食べる焼肉はうまいなぁ。」
「今度はリノがおごってよ?」
「ん?そのうちな」肉を頬張りながら答えるリノ。
「で?どんなバイトなん?」
「ボクのバイト?ん〜なんと言っていいのか。はい、名刺」
トール師匠の名刺を渡して説明する。
「この人のアシスタント?事務作業とかその他。」
「コメンテーターって怪しい感じやなぁ。大丈夫なん?」
「大丈夫だと思うよ。お祖母さんの知り合いだし。」
「そうなんや。まぁ、大丈夫ならええけど」
さすがに符術のことは言えないよなぁ。せっかくできた友達に変な目で見られたくないし。
焼肉うまい。今日はトータルでいい日かな。
などと、いろんなことに目をつぶりがちなボクは後に後悔するのであった。
(後半へ)
長くなったので後半に続きます。