眠り姫は夢で踊る 序
「眠り」という言葉を主語にして、続く形容詞を深度にした人は天才なのだと思う。
だが、言葉の多様性・意味の流動性を認めるならば、たとえば「眠りが薄い」というセンテンスもまた言い得るだろう。
どこか曖昧で、意識がある状態と意識のない状態との中間。閉じた両目以外の感覚器官で周りの状況をあやふやに認識しているのが僕にとっての睡眠時間に過ぎなかった。そのため、学生時代は「今日変な夢見てさー」となんの広がりも持たない話題を口にして周囲を辟易とさせる同級生たちのことを、単純に羨ましく思っていた。僕は物心のついたときから、いや、きっとおそらく生まれてから一度も、睡眠のもたらす夢というものを見たことがないのだ。
だから友人らの話す夢の話には、どんなに突拍子もなく、どれほどくだらない内容でも真剣に耳を傾けた。そしてその夢を見た背景について自分なりに睡眠について学んだ知識や友人らの心理状態を推測し、考察をしていった。そうすることで、自分も夢を見てうなされたり、寝言を発したりできるのではと思っていたのだ。
しかし、ああでもないこうでもないと、犬に手を噛まれたという夢にさえも心理学やら何やらの用語で理由づけを図る僕の姿はおそらく奇異なものだったのだろう。やがて、ある一人の同級生を除いて、僕に向かって、夢について話す者はいなくなった。
そのたった一人の同級生こそ、三島奈々子。
――彼女は、毎晩僕を殺す夢を見ていた。






