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「君たちはいつか、カエルを連れてくることをやめて、次々とほかのものに手を出し始めるだろう。そしていつか、わたくしに見られたときと同じような反応をするやつがでてくる。それが蛇じゃないことを、知りたかったんだ。自分が蛇じゃないってことを、証明してほしかったんだ」
それを証明することは、俺にはできない。
証明するには、人間だと証明するには、彼女を納得させるには——ゲコ太をビビらせることのできる人間を見つけなければならない。
「きっと蛇を連れてきても、ゲコ太は同じ反応しないと思うよ」
いつのまにか売店の袋をぶら下げて、部長は立っていた。
「そんなことないわ。わたくしは、蛇なのよ。生まれてからずっとそういう体質だった」
「蛇じゃないよ」
「こんなに目が尖っているのに」
「蛇じゃない」
「カエルがこんなにビビるのに」
自覚はあったのか。
「それでも、君は蛇じゃない」
部長ははっきりと言った。
彼女の目を捉えて。
「……ときどき美味しそうだなって思っても?」
「……へ、ヘビだァ!」
ひぃいと机の下に身を隠す。
かっこいいと思っていたらこれである。
「ふふ、冗談ですよ」
蛇川は笑って立ち上がった。
背を向けてそのまま立ち去ろうとする。
「蛇川」
蛇川は返事をしなかった。
ただ足を止めて、顔を向けようともしない。
「まだ依頼は終わってないからな」
肩を少し震わせて、部室を出て行く。
溶けたアイスを口に含んで、息を吐く。
なにもできなかった。
自分がどうしたいのかわからないまま話が進んで、巻き込まれていたはずだったのに、自分から積極的に動いて。
「部長」
「なに」
「ずっとわからなかったんだよ。なにかをがんばろうっていう気持ちがさ」
「ふむ」
「他人に探してたんだ。俺にはないもの、俺にあるはずなのにないものを。あるわけないよな、俺のものは、俺の中にしかないんだから。他人の中に俺がいるわけないんだから」
「……………………せやな」
わかってもいないのにわかっている振りをするな。
「今回はダメだったけど、数馬はがんばったよ。また次がんばろ。そして部活を作ろう。一緒にね」
「あ——あぁあ! 腹減ったから帰る!」
「ひィ! なんで急に脅すのさ!」
危うく頷きかけてヤクザのようになったが、うまくごまかせただろう。
「んじゃ」
「え、一緒に帰ろうよ」
「なんで」
「え、親友だよね? 僕たち親友だよね? 一緒に帰るのって普通だよね?」
「いや——」
そして、部長の顔をみる。
「友達だ。ただの友達だな」
そんなところだろうと、手を振った。
いきなり、初めての依頼から失敗する。
俺たちはそういうやつらだ。
この物語は、きっと、なにもかもうまくいかない。
そういう話だ。
だれも幸せにならないだろう。
そんなどうしようもない俺たちの話でよければ、ぜひ聞いてもらいたい。
視てもらいたい。
信じるのは自分の目だけだ。
君自身の目だ。
俺の目じゃない。
俺の目じゃ、ない。