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プレゼンスB  作者: 重山ローマ
部長と俺と
6/45

 

「君たちはいつか、カエルを連れてくることをやめて、次々とほかのものに手を出し始めるだろう。そしていつか、わたくしに見られたときと同じような反応をするやつがでてくる。それが蛇じゃないことを、知りたかったんだ。自分が蛇じゃないってことを、証明してほしかったんだ」


 それを証明することは、俺にはできない。

 証明するには、人間だと証明するには、彼女を納得させるには——ゲコ太をビビらせることのできる人間を見つけなければならない。


「きっと蛇を連れてきても、ゲコ太は同じ反応しないと思うよ」


 いつのまにか売店の袋をぶら下げて、部長は立っていた。


「そんなことないわ。わたくしは、蛇なのよ。生まれてからずっとそういう体質だった」


「蛇じゃないよ」


「こんなに目が尖っているのに」


「蛇じゃない」


「カエルがこんなにビビるのに」


 自覚はあったのか。


「それでも、君は蛇じゃない」


 部長ははっきりと言った。

 彼女の目を捉えて。


「……ときどき美味しそうだなって思っても?」


「……へ、ヘビだァ!」


 ひぃいと机の下に身を隠す。

 かっこいいと思っていたらこれである。


「ふふ、冗談ですよ」


 蛇川は笑って立ち上がった。

 背を向けてそのまま立ち去ろうとする。


「蛇川」


 蛇川は返事をしなかった。

 ただ足を止めて、顔を向けようともしない。


「まだ依頼は終わってないからな」


 肩を少し震わせて、部室を出て行く。





 溶けたアイスを口に含んで、息を吐く。

 なにもできなかった。

 自分がどうしたいのかわからないまま話が進んで、巻き込まれていたはずだったのに、自分から積極的に動いて。


「部長」


「なに」


「ずっとわからなかったんだよ。なにかをがんばろうっていう気持ちがさ」


「ふむ」


「他人に探してたんだ。俺にはないもの、俺にあるはずなのにないものを。あるわけないよな、俺のものは、俺の中にしかないんだから。他人の中に俺がいるわけないんだから」


「……………………せやな」


 わかってもいないのにわかっている振りをするな。


「今回はダメだったけど、数馬はがんばったよ。また次がんばろ。そして部活を作ろう。一緒にね」


「あ——あぁあ! 腹減ったから帰る!」


「ひィ! なんで急に脅すのさ!」 


 危うく頷きかけてヤクザのようになったが、うまくごまかせただろう。


「んじゃ」


「え、一緒に帰ろうよ」


「なんで」


「え、親友だよね? 僕たち親友だよね? 一緒に帰るのって普通だよね?」


「いや——」


 そして、部長の顔をみる。


「友達だ。ただの友達だな」


 そんなところだろうと、手を振った。




 いきなり、初めての依頼から失敗する。

 俺たちはそういうやつらだ。

 この物語は、きっと、なにもかもうまくいかない。

 そういう話だ。

 だれも幸せにならないだろう。


 そんなどうしようもない俺たちの話でよければ、ぜひ聞いてもらいたい。

 視てもらいたい。

 信じるのは自分の目だけだ。

 君自身の目だ。


 俺の目じゃない。

 俺の目じゃ、ない。


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