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「次は?」
「はい、裏山の水たまりに浮かんでたトノサマガエル」
ゲコ太はまたふいっと顔をそらした。
興味がないらしい。
「これで何匹目だよ……うちは生物部じゃないんだぞ。こんなグロテスクなもの、これ以上見たくないし、触れたくもない」
蛇川真白が部室にやってきてから、もう3日が経っていた。
毎日のように彼女はゲコ太を部室に連れてきては、自分の部活があるからと言ってでて行ってしまう。
頼りはゲコ太の反応だが、どれも同じ反応ばかりで、なにが正解なのかもさっぱりわからないでいた。
「数馬、僕、もう、帰りたい」
「依頼を聞いて、お礼に部活に入ってもらうんだろ。諦めるなよ」
「うー」
なんで俺が励まさないとならんのだ。
部室にはすでに百匹以上のカエルたちの合唱団ができていた。
そろそろクレームがきてもよさそうなものである。
もういっそ、カエルを部員にしてしまえばいいんじゃないか。
「学校中の使わなくなったバケツとかでなんとか今は持っているけど、もう限界だぞ。逃がしに行かないと」
すでに何匹か脱走しているが気にはしない。
「カエルは帰るのね」
「ほら、はやくしろって。ついてくるだけでもいいから」
部室中に散らばったカエルたちをかき集めて、部室を出る。
机の上のゲコ太は置いたままだ。
まあ、すぐに戻ってくるから問題ないだろう。
部室をでてしばらくすると、図書室の前を通りがかった。
丁度でてきた生徒と目が合う。
「三波じゃないか」
「ん? ああ、数馬くん」
三波千和は、クラスメートである。
彼は部活には所属しておらず、毎日この図書室に通っている。
勉強だけにすべてをかけている人間だ。
だからなのか、体つきは華奢で、声変わりはまだ迎えていない。
声変わりに関しては全く関係なさそうだが、まあいいだろう。
何かに打ち込める——そんな三波のことを、実のところ気に入っていた。
「なに? その持っているゲテモノは。悪いけど私には近づけないで」
「カエル好きなやつなんてそうそういねえよ。俺も近くに置いておきたくないから、こうして逃がしにいくところなんだ。どうだ、たまには散歩でも」
「お断り。私は勉強だけしてればいいし。外で学ぶことなんて、全部本に書いてあるからね」
まあ、そうかもしれないなと納得する。
「なに? 三波くんと数馬は親友ってやつなの?」
部長に聞かれて、ははは、と笑った。
友達ではあるが、親友ってほどの仲でもない。
でもやはり俺はこいつのことを気に入っているし、何より彼のそういった生き方が——。
「好きなんだ。俺って、三波のことがさ」
「気持ち悪い。まあ言われて嫌な気はしないけどさ。気持ち悪いけど」
「二回も言うなよ」
「ほら、数馬、そろそろいかないと。カエルがまた逃げちゃうよ」
「それもそうか。じゃあ、三波。また明日な」
「ん、怪我は気をつけて」
手を振って外へ向かう。
やはり、こうやって気にかけてくれるところも、やはり好きなのだった。
もちろん友人として。