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「ま、待て!」
驚きに硬直した体を、無理やりに動かし廊下を駆け抜けた。
全力で走るということがあまりに久しぶりで、胸の奥が熱かった。
乾く口内に土の香りが――それはただの記憶である。
階段を一番上から大きく飛び、手すりに足をかける。
元は階段トレーニングを楽するためにやっていた、ただのサボり行為。
階段を降りるよりも滑った方が楽だから、ばれないところでこっそりやっていた危険行為である。
もちろん教師にみつかりでもすれば多少注意は受けるだろうが、いまはそんなことを言っている暇ではない。
連れ去られていく先は校庭に間違いないだろう。
階段を一番下まで滑り降りて、もう声は聞こえなかったが、着地で痺れた足を動かした。
「止まりなさい!」
「なっ――」
急に目の前に団子が二つ現れた。
校庭まであとほんの少し。
足を止めていればまた彼は爆破されてしまう。その前に止めなければ。
「後にしてくれ!」
「だめです! 階段を滑り降りるなんて危険行為、許しておけません!」
「謝るから、ちゃんと謝りに戻るから! いまは通してくれ!」
「だめです!」
頭の硬いやつだ。
いまは無理にでもここを通らなければ――。
「緊急事態だ」
「ならわたしもいきます」
いやいやいや、察しが良すぎないか!?
「さあ、いまだけ廊下を走るのも許します。急ぎましょう」
「お、おう」
許可されて廊下を走ったことがないからか、妙な感覚で足が浮くようだった。
内履きを靴箱に叩き込んで、ああ、急いでるのならそもそも履き替える暇もなかったのだろうが。
もう脱いでしまったので、外履きを先に取り出さなかったことに後悔しながら奥に押しやられたそれを取り出して履き替える。
もたもたしていると
「はやくしてください! 緊急だって言ってましたよね」
「くそう」
ダブルお団子は手際がいい。
俺が履き替えずに走って行ったとしても、履き替えてから十分追いついてきそうなくらいだ。
つま先を蹴って、こういうときに限って靴はすっぽり入ってくれないのだが。
「――――」
急いでください、と彼女は言ったのだろうか。
声が激しい爆発音にかき消される。
規模が違うとすぐに分かった。
砂埃が迫ってきている。
音に驚いて振り返るダブルお団子の腕を引き、咄嗟の判断で抱き寄せた。
うむ、仕方のないことだ。
開いている玄関の扉を閉める余裕はない。
雨のように、砂は校舎に降り注いでくる。
「――――」
すぐそばの彼女の悲鳴すら聞こえなかった。
砂の粒がガラスを叩き、地面を叩き、雷のような轟音の中、ガラスの飛び散る音が混じっている。
それはほんの数秒の出来事だ。
あまりの出来事に引き伸ばされた恐怖の時間は、間も無く終わった。
二人で座り込んでしまった玄関を、教師たちが揃って駆け出していく。
特に驚いた表情もなく、それはまるでいつものことのように、爆発のあった場所へ。
ダブルお団子は俯いたまま、震える指先で俺の袖先を握っていた。
彼女もまだ何があったのか把握できていないようだ。
俺ももしかすると震えているのかもしれない。
「拓海、大丈夫か」
聞きなれた声に顔をあげると、そこには同じ家に住む叔父、数馬大悟の姿があった。




