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プレゼンスB  作者: 重山ローマ
なんでもするって言ったよね?
23/45

 

「さて、やあ諸君。久しぶりだねえ」


 お前がいなくなってから30分もたっていないんだが。


「あたしの名前は唯野蜜柑。イントネーチョンが大事」


「イントネーションでしょう」


 三波が小声で指摘するが、蜜柑には聞こえないようだ。


「さて、あたしたちは最高の新聞を完成させた! あたしたちはいい仲間だよ! これからもいい新聞を、一緒に作っていこ!」


「なんでもする」


 ぼそりと、また小声で三波は呟いた。


「本当? 三波くんがそう言ってくれるなんてすごくうれしい。三波くんがきてくれるなら、他の二人もきてくれるもんね」


「唯野さん。自分で言ったことよ」


「え?」


「なんでもするって、言ってたわよね?」


 言っていた。

 確かに、なんでもするから、と。


「え? え……?」


「なんでも部に、唯野さんが入るのよ」


「ほんと!? 蜜柑ちゃんなんでも部に入ってくれるの!?」


「い、いやいやいやいや。あたしは新聞部を続けるために依頼にきたわけであって」


「なんでもするって、言ってたわよね?」


「……」


 助けを求めて俺に視線を送る。

 残念だが、俺はお前の味方じゃない。


「蜜柑。世の中甘いことだらけじゃないんだぜ。お前の頭のそれは、団子じゃない」


「う、うそでしょぉ……」


 唯野蜜柑は力なく座り込んだ。


「それってどういう意味?」


 俺は部長の質問を聞き流すことにした。





「シクシク……」


「お、お姉ちゃん? 出て行ってから10分もたってないよ?」


 あたしはまた、生徒会室に来ていた。


「柚子ぅ。新聞部は廃部だよぉ」


「あー、ふられちゃったんだ」


 後ろの副会長がわざとらしく舌打ちした。

 傷つくからやめてください。


「大丈夫。わたしがまたもう少し頑張るから。がんばって次の人さがそ? ね、お姉ちゃん」


「違うの、柚子。あたし、新聞部やめなきゃだめなの」


「え?」


「あたしの頭の団子は蜜柑なんだってぇえええ」


 副会長は後ろで笑いをこらえている。

 やめなさい。

 見えてるからね。

 気付かれないと思ってても、笑いをこらえることだけは隠しきれないからね!


「お姉ちゃんの頭のそれ……蜜柑じゃなかったの?」


「……え?」


「え? わたしのは柚子だけど」


 そう言って、柚子は自分のお団子の中から柚子を取り出した。


「え? 柚子のお団子は柚子なの?」


「こっちはスダチ」


 反対側から小ぶりなスダチを取り出した。


「え? あたしがおかしいの? あたしのお団子は蜜柑なのが正しいの?」


 副会長は困惑している。

 あたしは混乱している。


「お姉ちゃんにあげる」


「あ、ありがと」


 あたしは受け取ったスダチを団子に押し込んだ。

 いい香りがする。


「新聞部は廃部で、お姉ちゃんはどうするの?」


「なんでも部に入る」

「無許可勧誘の?」


 あたしは頷いた。

 副会長は後ろで、珍しくガッツポーズを決めている。

 なにかいいことがあったのかしら。


「じゃあお姉ちゃんは、どんな部活なのかしっかり報告してね。ふふふ」


「え? なにその笑い。え?」


 ふふふと、副会長も笑っている。


「じゃ、わたしたちはまだまだ仕事があるので」


「え? なに!? 仕組まれてたの? えっ!?」


 ぴしゃりと追い出された。

 いつの間にか、ポケットに入っていた新聞部部室の鍵はない。

 押し出された時に、副会長に取られてしまったのだろう。


 行く当てはひとつしかなかった。


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