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「実は、今日はお客さんがくるのですが……」
「なんで? 生徒会にでも目をつけられたのか?」
違う、と激しく首を振る。
「これ、見て! これこれ!」
「ああ、いつも持っている部活勧誘チラシな。それが……おい」
『人には言えないお願い、なんでもやります! 絶対に話しません!』との文字を見つける。
あまりいい言葉には思えないが。
「そもそも部活として認められてもいないのに、なにをするんだよ」
「部活として認められていないからこそ、なんでもできるんだよ。数馬はわかってないねえ。おバカさんだねえ」
「……」
あらためてチラシに目を通す。
手作りの、とても高校生が作ったものには思えない低レベルのチラシは、見るだけで人を不安にさせるクオリティになっている。
これでは人が寄ってこないのも納得である。
「で、目的はなんなんだ?」
「それはね、人には言えない悩みを解決してあげた代わりに、部活に入ってもらおうという完璧な作戦が」
「入ってもらえないだろ」
悩みを聞いてもらうのと、部活にはいるのとは全く話が違ってくる。
「人には言えない悩みをチラリ」
「最低だこいつ!」
よくよく考えてみれば解決したあとなら意味がなさそうだが。
「そろそろ時間だ」
部長は、部室の扉をじっと見つめて、だれかが入ってくるのを待つらしい。
こいつの思惑がうまくいくとは到底おもえないが。
「いえ、すでにわたくしはここにいます」
「ひィ!」
「おわっ!」
机の下からにょきっと頭を覗かせてそいつは現れた。
どうやら依頼主は彼女のようだが。
尖った目尻と、後ろで縛ったあまりに長い髪。
見方によっては、
「蛇に似て……あ、いや、なんでもない」
「あら、わたくしの名前は蛇川ですよ」
「ヘビだァ!」
ヘビではない。
人間である。
「話はきかせてもらいました」
「あ、いや……なんのことかなぁ。こわいこわい、まるで的確に獲物を捕らえるヘビみたい……ヘビだァ!」
「落ち着け、部長。ただの人間だ」
部長の思惑はすでに相手側に知れてしまったようだ。
話を聞かせてもらうのはこちらであるはずなのに。
「まあ、なんだ。話を聞こうじゃないか。チラシなんかを見て相談に来るくらいなんだ。相当悩んでるんだろ。話しにくいところは濁していいから」
「そうですね。解決したあとの話は、その時でいいですから」
やはりバッチリ聞かれているわけだが。
そして、蛇川真白はゆっくりと口を開く。
どうやらその悩みは、簡単に解決することはできなさそうだ。
「親友の婚約者を探して欲しい」
無理だ。
すぐにわかった。
学生の悩みにはどうもおもえないが、彼女の顔は一貫して、真面目なようだった。
手伝うと言ってしまった手前、そのまま返すわけにもいかない。
「その、なんだ……。親友には会えないのか?」
「そうだよね。数馬の言う通り、本人と話してみないことには……」
まずはその親友にあってみることにする。
と、そこまではよかったのだが。
「彼はわたくしの前じゃないと逃げちゃうの。あなたたちと会話ができるとは思えない」
と、ポケットから小さな瓶を取り出して、ちょこんと机に置いた。
「ゲコ」
「カエルだァ!」
それはなんというか、瓶に封じられた彼は、人間ではない。
「落ち着け部長。ただのカエルだ」
簡単にはいかないというか、解決できるのだろうか。