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いま、何かと目が合った。
唯野蜜柑は、何かと目が合った。
「う、ううう嘘でしょ? なんであんなところで目が合うのよ。おかしいじゃない」
床から数センチ。
そんなところで目が合うわけがない。
「間違いない。この部室は何かがいるわ。おぞましい何かが」
帰りたい。
「い、いやいやいやいや。逃げちゃダメよ。あたしはジャーナリスト! どんな辛いことがあっても、自分のためならやりきらないと!」
でも、こわいから匍匐前進はやめることにした。
下に目があるのだ。
上に目はない。
どんな化け物でも、上下に目がある奴なんているわけがない。
「そうよ。きっと逆立ちでもしてるんだわ。ふふふ」
あたしはまたドアに近づいて、ゆっくりと力を入れ――——
「……」
「……」
「いやぁああああああああああああああああああああ!」
あたしは気を失った。
「いやぁああああああああああああああああああああ!」
「うわぁああああああああああああああああああああ!」
「ヒィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
二人は目が合ったことに驚き、一人はよくわからないまま釣られて悲鳴をあげた。
「二人ともうるさい」
「はい」
三波に言われて気が落ち着いた。
「ヒィイイイイイイ!」
「部長」
「あい。ごめんなさい」
部長も落ち着いたようだ。
「依頼主でしょ。外にいるの」
「おばけじゃないの? ほんとに? 数馬見てきてよ」
「嫌だ」
きっぱりと言い張った。
「なんというか。ここにきてから数馬くんのことがよくわからなくなったわ」
三波はため息をついて立ち上がると、部室のドアを力強く開け放った。
「あー」
「どう? おばけまだいる?」
部長は恐る恐る三波の後ろに立つ。
「なんというか。まあ、恐ろしい光景には、なってるわね」
三波が言うには、白目を向いた生徒が、カメラを片手に倒れているらしい。
見えてはいけないものまではっきり見えているそうで、俺はこわいから近づかないことにする。
今日ではっきりした。
俺は怖いものが嫌いである。




