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あたしの名前は唯野蜜柑。
いや、冗談ではない。
あたしの実名だ。
時々ばかにされるけれど、ちょっぴりだけ気に入っている。
いま、そのことは置いておこう。
名前のことはいくらでも話せるけれど、いまはそんなことを考えている暇はない。
「だから、無理なの」
私は頭を下げていた。
土下座だ。
床に押し付け——というか、擦り付けるように、下手をすれば煙でも出てしまいかねない勢いで摩擦している。
「そこをなんとかっ! あたしたち姉妹じゃない。お姉ちゃんが頼んでるんだから、ね?」
「他の人の目があるところで、姉に土下座されるこっちの身にもなってよ」
それを含めての土下座だった。
「お願いします! なんでもしますから!」
「でも……」
妹の立花柚子は戸惑いの声をあげた。
きっと彼女も、必死にやってくれていたんだと思う。
あたしの部活が潰されないように。
「新聞部部長として、ずっと昔からあるこの部活を潰すわけにはいかないのよ!」
「それはね、生徒会長のわたしとしてもね、姉を応援する妹としてもね、同じことを思ってる。だけど、部員がたった一人の部活に部費をだすわけにはいかないの。人数がどれだけ多くたって、どれだけ少なくたって、同じ額なのはお姉ちゃんも知ってるでしょ? 不公平だって声が多くて。せめて五人いれば……。いまだって特例なんだから」
「たすけて柚子ぅ」
「もう」
その時、後ろで黙っていた生徒副会長が声をあげた。
「ん?」
なんの話だ?
あたしは顔をあげる。
「そっか。お姉ちゃん、実は勝手に勧誘をしている部活がいるんだけど、ちょっと……」
「ちょっと?」
「なにかを始めたい生徒の意志は大事にしないといけないと思うの。でも場所がよくない。わたしは近づきたくないからね」
「というと?」
「元美術準備室なの」
「……」
あたしはなんと言えばいいのかわからないけれど、運が悪い人間だ。
新聞部として活動するには、写真をよく撮るわけだけれど。
「ねえ、柚子。あたしの体質、知ってるよね」
「うん」
「撮る写真が全部心霊写真になるって知ってるよね?」
「うん」
なんというか、そんな体質をしていて言うのもおかしな話だけれど。
「あたしがおばけ嫌いだってしってるよねえ!?」
「いってらっしゃい。お姉ちゃん。幽霊の新入部員さんが待ってるよ」
元美術準備室は昔から、おばけが出ることで有名だった。




