表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プレゼンスB  作者: 重山ローマ
それってつまりそういうこと?
11/45

5

 

そうして、次の日に自転車小屋の前で待っていると、まだ少しふらふらとはしているが、軽快に走る文太の姿があった。


「やあ文太」


「よう数馬」

 

俺と文太の挨拶をみて、部長は目を丸くしてなぜか頰を赤く染めた。

 

俺は無言で部長を殴った。


「な、なんだ? 朝から物騒だな」


「なに、大したことじゃない」


「親友なのに……僕たち親友なのに……なぐった……」

 

泣いているが、仕方があるまい。

殴られたのだから、きっと痛かったのだろう。


「その様子だと、僕の部員のおかげで、自転車には乗れるようになったんだね」


「そうだ。見た所もう問題なさそうだな」


「ああ。そういうことだ」

 

とりあえず、これで前段階は終わりである。

忘れていたが、自転車に乗ることが依頼ではないのだ。

大事なのはこれからである。

 

どうせ振られるだろうが。


「で、相手はだれなんだ。もう濁す必要もないだろ」


「……例えばだ、牧場にブタがいたとする」


「つまりお前はブタなんだな」


「違うわ! 切り返しがはええよ!」


「なんだよ。わかりにくいやつだな」

 

とにかく、そのまま濁されては遠回りになるだけだ。

しっかり聞かなければ。

 

なんというか、友人ならそんな隠すことでもないだろう。


「名前は?」


「……千和」


「……ん? なんだって?」

 

聞こえてはいけない名前が聞こえた気がするが。


「三波千和だ。幼馴染であり、つまり、そういうことだ」


「……」


「ねえ、数馬」

 

小声で部長が言う。

やめろ、それ以上先は言うんじゃない。


「それってつまりそういうこと?」

 

三波千和は、俺の数少ない友人。

俺のクラスメート。


「げ、文太」

 

そこに、徒歩で学校にやってきた三波が現れる。

いいタイミングだ。

これ以上とないタイミングである。


「確かに三波は綺麗だけどさ……」

 

こいつは男である。

こいつは男なのである。


「どうかしたの数馬くん?」

 

男にしては長い髪。

スカートを風に揺らして、三波千和は微笑んだ。

 


なんとか授業を終えた俺は、文太を連れて部室にきていた。

いつもは軽く話す三波との会話も、今日はうまくいかなかった。

それはまさしくこいつのせいである。


「なんだ、その、文太。言いたいことわかるよな?」


「はっきり言ってもらわないとわからないが」

 

お前がそれを言うな。


「なにせ爪を隠しているからな」

 

なら仕方あるまい。


「まあ、確認したいから言うだけだ。別に深い意味はない。本当に、深い意味なんて全くないから、軽い気持ちで答えてくれ」


「うむ」


「お前の言っている『三波千和』について教えて欲しい」

 

もしかしたら、俺のクラスメート。

俺の知っている彼とは違うのかもしれない。

「げ、文太」と言っているのを見てしまっているが、あれはきっと聞き間違いだ。

一致しないはずだ。


「ん? クラスメートなんだろ?」

 

間違いない、一致した。


「どどどどどどどど」


「ヒィッ! 数馬が変になった!」

 

大丈夫だ。

まだ正気を保っている。

 

ただ、なにを言えばいいのかわからなくなって混乱しただけなのだ。


「僕が思うに、愛の形は人それぞれなので」

 

と、部長は言う。

たしかに、それは正しい。


「だよな。幼馴染だから付き合えないっていうのはないよな」

 

文太と三波の間にある壁ははたしてそれだけなのか?

 

こいつにはもう壁なんて見えてないのか。

それとも俺の理解が足りないのか。

不安になる。


「え、文太くんどこいくの?」

 

急に立ち上がった文太をみて、部長が引き止めた。

気づけば顔は真っ青で、いまにも倒れてしまいそうである。


「……そういうことだ」


「ま、待て待てっ! 落ち着け!」

 

表情から察するに、いますぐ告白でもしに行くところだったのだろう。


「その顔で行っても、うまくとは思えないぜ?」

 

真っ青で迫られても怖いだけだろうし。


「そうか。どんな顔?」


「なんというか……」

 

うまく言い表せる言葉が見つからない。

俺が悩んでいると


「もうすぐ出荷されるブタのような顔してるよ」

 

部長は時に鋭い。

それが良いことに繋がるとは限らないが。


「三波と話してくる。なにか分かることがあるかもしれない」

 

俺は文太を部室に置いて、図書室に向かうことにした。

彼ならいつものようにそこにいるだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ