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そして、陽気に駆けていく生徒たちを見送り、一人帰路につく。
授業が終わってしまえば、急に暇になってしまう。
それが帰宅部というものだろうし、と分かってはいてもなかなかに慣れないものだった。
学生らしいことがなにもできない俺には、まあずいぶんとお似合いな部活動だが。
この高校では9割以上の学生が部活動に参加している。
帰宅部はもちろんその中には入らない。
ごく少数派の、この学校に合わなかった側の人間だ。
2年生になってからもう数ヶ月も経ったか――あいかわらず何も変わらないまま、俺はのんびりと生きて行くのか。
「部員募集中でぇす」
どこかの部活がまた勧誘をしているようだ。
もう夏になるというのにいまさら新入部員なんて集まるのだろうか。
そんなことを考えながら、また今日も、そいつの前を横切った。
「……」
別に、その部活に興味が湧いたわけではなかった。
そいつに興味が湧いたのだった。
自分には熱意というものが欠けている。
そのことをもう随分まえから自覚していたから、もう何ヶ月も、同じ場所で無視し続けられているそいつの姿を、格好いいと思っていた。
自分にはないものが、そいつにはあると思った。
このままの自分でいることが、嫌になっていた。
「なあ、お前」
「は、は、ははは」
そいつは目を大きく開いて、体をガタガタと震わせた。
「話しかけられたァ! 怖い!」
少しでもそいつを格好いいと思った自分を、ボコボコにしてやりたくなった。
部屋にあるのは長机と椅子。
あとは本棚だけ。
本といっても教材のようなものがずらりと並んでいるだけで、興味がそそられるようなものは何ひとつない。
窓際で大きく息を吸ったそいつは、どうしたものかと悩む自分に言った。
「どうも、部長です! 本日は声をかけていただけて大変光栄です。ハラワタが煮えくり返る思いです!」
「……あ、いや、怒ってるのか?」
「そんなそんな、全然です」
どっちなんだそれは。
「美術室が部室になってましてですね。あ、美術室といっても準備室のほうですが、部員はいま僕を含めて二人! できたてホヤホヤでつ」
「そもそも5人いないと部活としては認められないはずだが。で、もう一人は?」
「あなたでつ」
「……」
こいつの頭おかしいのか。
それとも俺の方がおかしいのか。
後者はありえないわけだが。
「お前バカだろ」
「賢いと言われたことはないね」
「じゃあバカとは限らないな」
「うん」
頷かれてもこまるのだが。
とにかく、と話を戻すことにする。
「今の時期でも部員を必死に探してたのはそういうことなんだな。それでも、いまフリーなやつなんて帰宅部だけだし。そもそも帰宅部が新しく部活に入ろうとするとは思えない」
「でも、君も帰宅部だよね? 入ってくれるんだよね?」
上目使いされてもうれしくない。
そもそも俺はまだ部活に入ったつもりはない。
「今後一緒に行動するわけだし、名前を教えてくれるとうれしいです」
そいつは照れたように頰を染めて言う。
だから、そういうのはうれしくないって。
「数馬だ」
名前を教えるくらいは問題じゃないだろう。
と、あっさりと名前を教えてしまった自分に違和感を覚える。
自分はそんな人間だったか?
そもそもなんでこいつに話しかけてしまったんだ。
「僕のことは部長とよんでね」
まあ、なんというか。
よくわからないことだらけだけれど。
「俺、手伝うわ。言っとくけど、入部するってわけじゃないからな」
少なくともこいつのことは、嫌いにはなれなさそうだ。




