精神の檻
私は今までに沢山の後悔を重ねてきました。
私には友と呼べる人物はございませんが同じ境遇の人間は存在するかもしれません。
そんな人達に少しでも伝えたいことがあるのでこうして手紙に認め、文字にして残そうと思います。
私は昔から思うところがありました。
幼い頃から感じていた他者との違和感。
この違和感こそが私は人とは違う、特別であると考えていた要因の一つであった。
この驕り高ぶった態度や感情というものが後々の後悔の多くに繋がっていたのでしょう。
私は幼い頃から他者から疎んじられる存在でした。
自身には自覚はありませんでしたが年齢相応の子供らしさというものがありませんでした。
ませた子供というのが正しい表現なのでしょうか?
なんにせよ今の自分からすれば少々気持ちの悪い子供でした。
人々は面と向かっては幼い私を褒め称えるのですが、裏では気味が悪いだの変人だのと言われておりました。
その事を知っていた私は全く気にしていなかったのです。
正確には変人な私は人とは違う。非凡人なのだ。
そう思いつけあがっていたように思えます。
(昔のことなので正確な感情は覚えてませんが)
そんな私に友達になろうと歩み寄る者もいましたが……
全てを撥ねつけていました。
決して嬉しくなかった訳ではないのです。
ですがその時に自分は完全に驕っていました。
成績も優秀な方でした。
そんなこともあり何故下等な人物と共にいなければならないのかと考える私もいました。
ただそれだけではありませんでした。
私は恐れていたのです。
非凡人であるお前が何に恐れているのだ?
これまでちやほやされてきて調子に乗っているお前が恐怖するものは何か?と考える人も多いかと思います。
これについてはちやほやされてきたというものに多少は起因してきます。
私は気づいていたのです。
特別だ、などとのたまってきた私が実は他者よりも劣っていると悟られることに……
私はこのようにお山の大将気取りで生きてきたのです。
ようするに私は自身の才能を磨こうとはしなかったのです。
その間に私はいつのまにか馬鹿にしてきた他者に抜かれているのではなかろうか?
いや、もしかしたら始めから劣っていたのではないか?と考えてしまうのです。
そんな痴態を他人に晒すのは私のプライドが許さない……
ばれなければ良いのではないか?
ならばと思い私は人との距離を取ることで心の安寧を守ることにしたのです。
そんな幼少時を過ごしてきた自分の思考回路はねじ曲がったものでした。
もちろん親しい人物などできるわけもなく孤立した人生を送ってきました。
ですが、私は特に気にしたことはありませんでした。
まだ私は自身のことを特別だと思い込んで生きていました。
そんなある日私は気付いてしまったのです。
実の父親が麻薬を密売していることに……
そして私は思ったのです。
何でこんな人間がこの世に存在しているのだ?
他者から金を搾取し、麻薬を売りつけてその人物の人生を摘み取る……
世に蔓延る害虫がこんなにも近くにいるではないか。
その時には私の父親であるということなど微塵も関係はありませんでした。
そこに私の中の悪魔が囁きかけるのです。
「そんな奴は殺してしまってよいではないか」
いくら許せない悪であろうと殺すなんてことはできません。
通報する等の方法が他にも存在するはずです。
「それでは世に蔓延する悪はなくならんぞ。その類の人間は更正することなどできまい……」
だからといって殺すなんて……
「お前は何を善人ぶっているのだ?お前はいままで他者を馬鹿にしてきた悪ではないか。」
そんなことはありません……と思いましたが反論できることが私には存在しませんでした。
「欲望を抑えることはない。肯定するのだ。相手は害虫なのだろう?ならば一匹駆除するのに何を躊躇うことがある?」
確かに害虫を駆除するのに良心は痛みません。
ですがこの世界にはルールがあります。
それを破ることはできません。
「だがそのルールとやらでは悪を裁ききれないではないか。お前は害虫の存在を知っている。ならば力あるものはそれを行使する義務がある。」
実力があるものはそれを行使する義務がある。
それは私も同意見ではあります。
ですか殺人を犯すのは違うと思うのです。
「そうか……では最後に言っておこう。一つの悪行は百の善行によって償われる、この意味が分かるか?」
どこかで聞いたことがあるような……
「この件に関して言えば、一人を殺すことで百人の人生を救うことができる。賢いお前ならもう分かっているだろう」
その時には私の気持ちは決まっていた。
人の形をした害虫を葬る。
それが私が自身に求めた悪行でもあり、善行でもありました。
「俺はお前であり、お前は俺だ。お前はただ自分の欲望を善行をしているという実感でコーティングして酔っているだけだ。だが本心は分かっているぞ……」
そんなことは自分自身が良く分かっていましたが見て見ぬふりをしました。
そしてただ善の道に進む自分を作り上げそれを肯定しようとしていました。
本当に私はできるのか?
害虫だと言い聞かせてきたが相手は生身の人間。
しっかりとした人の姿形をしているのです。
私はその事を考える度に足がすくみ、恐怖を感じました。
ですが私は決行することにしました。
包丁を片手に持ち、酒により泥酔して寝ている父親に刃を向けました。
ですがやはり背筋が凍りつくような感じに襲われ、手足の震えは止まりませんでした。
その時に
「よく考えろ、ここでこいつを殺せば救われる人間は沢山いるのだぞ。」
と甘い囁きが聞こえてきました。
すると手足の震えは止まり、不思議と力が漲り、罪悪感を感じなくなりました。
気付いた時には父親の心臓の辺りに包丁が突き立っていました。
私の服装を見ると返り血で赤くなっていました。
私は頭の中が真っ白になり、その後自分が取った行動を覚えてはいません。
ですが母親がこれを見て通報し、私は刑務所に入ることになりました。
このように驕り高ぶった自尊心を抑えることができず私はこのような道を歩むことになりました。
もっと人間ができていればこのような事にはならなかったのでしょうか?
自分は特別だとか非凡人ではないと早い段階で気付いていればこうはならなかったのでしょうか?
刑務所に入った今でも私は本当に自身が悪かったのかどうか分からなくなることがあります。
ですが後悔をしているのは事実であり、なんとなくではありますが私は気付いているのでしょう。
この手紙を読んでいる貴方の方がもう分かっていると思います。
教訓にしてなどと言える立場ではございませんが一人の人間の過ちを知っていて下さい。
これを読んだ貴方の人生がどうか幸多きものになることをお祈りしております。




